製材所とのつながりが重要
「わらしべの里共同保育所」では、埼玉県の秩父材(スギ)を中心に用いた結果、木材全体に対する県産材の使用率は84%に達しています。「この程度の規模であれば、一般的な工務店でも材料を調達できます。無垢の製材を用いて歩留まりをよくすれば、山に還元される金額が大きくなり、森林の健全な保全につながります」と古川氏。
ただし、工期が限られるプロジェクトではネットワークが大切、と古川氏は説きます。今回は埼玉県産材だけでは納期に資材調達が間に合わず、棟木を支える通し柱には柳川製材所(静岡県)、大梁の一部は協和木材(福島県)に協力を仰ぎました。
「日本の山がもつポテンシャルを、どのように活用するかが課題となっています。山や製材とのネットワークは工務店任せにせず、すべての設計者がもつべきではないでしょうか」(古川氏)。
建物を使いはじめて1年余り。長谷川氏は「敏感なセンサーをもつ子どもたちは、木が次第に身体になじんできた様子を感じ取っているように見えます。やはり子どもたちの居場所には、木が必要だと思います」と語ります。
古川氏も「木の空間が、子どもたちを伸び伸びとさせていることは確か。『木育』が注目され、小規模保育の場所も必要とされるなかで、木との触れ合いと、森の恵みを届ける機会を増やしたい」と展望を語ります。
実際に木の空間に身を置き、木に触れる機会が増えれば、木材の需要はいっそう伸びるはず。「わらしべの里共同保育所」は、国産材活用のさらなる可能性を見せてくれています。
Information
「わらしべの里共同保育所」が生まれたきっかけにもなった『木の家に住みたくなったら』(2011年)は2021年6月、『木の家に住もう。』として大幅に改定されて出版されています。
「本の内容の見直しに当たっては、“木を切る”こと、すなわち“木を使う”ことの大切さを強調しました。それは次世代の森を育てるということ。その想いを表現すべく、木を育てる男の絵を付け加えています」(古川氏)
※ 保育所(児童福祉施設)では、準耐火建築物の場合、「その用途に供する2階の部分の床面積が300㎡以上」であれば内装制限の対象となる。この建物では、2階の床面積が45.54㎡であるため、内装制限の対象とならない。準耐火建築物(耐火建築物)でない場合は、建物全体の床面積が200㎡以上となるため、内装制限の対象となる
取材・文=加藤純・建築知識 建物写真=傍島利浩 書籍写真=平林克己