1. 屋根のカタチ
都市部の狭小地では、斜線制限(道路・北側・高度地区)で、カタチを決めざるを得ないケースが多くあります[A]。内部空間をなるべく多く確保するため、斜線制限なりに屋根勾配を設定するケースが多いからです。一方、敷地に余裕のある郊外では、敷地の特性(視線の抜け)や方位を考慮して、屋根のカタチを自由に決めることが可能です[B]。
基本形は切妻屋根。家型のカタチは最も普遍的な屋根形状ですから[C]。ただし、斜線制限や隣地・道路との関係で、切妻屋根がそぐわないケースも。その場合は棟を境にして屋根勾配を変える差し掛け屋根という方法もあります[D・E]。
コートハウスを除けば、純粋な片流れ屋根は意外と少ないものです[F]。片流れの場合は、その屋根勾配によって建物の印象も変わるので、意匠の見せ方に応じて勾配調整を行っています。片流れ屋根でも、Bのように反対側に下屋を設けるケースもあります。
一方、陸屋根も少なくありません。ワンルームのように内部のプランに方向性がない場合[G]や、箱型のシンプルな意匠を志向する場合など。内部空間がスキップフロアなどで変化がある場合も、屋根(天井)の変化を意識させたくないので、しばしば陸屋根を選択します。建物がL字形などに変形する場合は、以上のような考えを応用します[H]。
A 敷地に余裕がない場合(玉川上水の家)

斜め方向からかかる第1種高度地区の斜線(6寸勾配)をかわした片流れ屋根形状とした「玉川上水の家」。ただし、単純な片流れ屋根とはせずに、道路側は一部陸屋根として天井の低い水廻り空間などに活用するとともに、低い壁で街並みに対し圧迫感のない印象を演出した
B 敷地に余裕がある場合(さつきの家)

敷地に余裕があり、自由に屋根勾配を設定できた「さつきの家」。庭に向かって4寸勾配の片流れ屋根を架けている。勾配をそのまま建物の妻面で見せることを意識して、屋根勾配やプロポーションを調整した。反対側には下屋を設けた
C 切妻屋根(呑川の家)
D 差し掛け屋根(緩斜面の家)
E 差し掛け屋根(紫陽花の家)

道路に対して棟から右側の部分をセットバックさせた「紫陽花の家」。植栽帯を設け、屋根を差し掛け屋根とした。内部に生じた天井高の差が、開放的な気分を味わう場所、気分を落ち着かせる場所など、さまざまな場所性を生み出している
F 片流れ屋根/コートハウス(OPEN-d)
G 陸屋根(VALO)
「VALO」については、【動画】350㎜幅の耐力壁で実現 圧迫感のない狭小建築において二重耐力壁の事例としても説明されています。
H 切妻屋根/ Lの字(鎌倉の家)
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