建築

「自然が豊かなテレワーク施設」働き方とまちづくり④

コロナ禍を経て、リモートワークなどの柔軟な働き方が一気に浸透しました。この連載では、ワークプレイス、またその周辺を取り巻くまちの活動について紹介します。最終回の連載4回目は、都心からのアクセスのよさや豊かな自然環境などの魅力を生かした個性豊かなテレワーク施設を設ける長野県塩尻市・富士見町です。

全国に先駆けテレワーク施設を展開する長野県

長野県は、2018年より「信州リゾートテレワーク」事業を始め、全国に先駆けてテレワーク施設を整備してきました。都心からのアクセスのよさや豊かな自然環境などの魅力を生かし、現在、80カ所以上の受入れ施設が開設されています。今回は数あるテレワーク施設の中から、個性豊かな2施設として、塩尻市にあるシビック・イノベーション拠点「スナバ」と、富士見町にあるコワーキング施設「富士見 森のオフィス」を取材しました。

シビック・イノベーション拠点「スナバ」

塩尻市は中山道などの街道が交わる宿場町であり、昔から人が交わる場所として栄えてきました。そこに、シビック・イノベーション拠点「スナバ」が20188月オープン。チーム・スナバとして施設運営を行う、行政職員の三枝大祐氏とフリーランスの草野エリ氏に話を聞きました。

三枝大祐氏(塩尻市企画政策部官民連携推進課兼チーム・スナバ)、草野エリ氏(チーム・スナバ)

地域の生き残り戦略として

きっかけは、塩尻市の人口減少。地域の生き残りをかけ、地域課題を解決していく拠点をつくるため、行政施策の一環としてスナバが開設されました。「シビック・イノベーション」は、シビック(市民の)+イノベーション(革新)という意味の造語。「イノベーションと聞くと、一部の限られた人しかできない印象があるが、そうではなく、市民レベルの小さな行動でも、それが広がれば、地域の未来を変えていくものになる。そういうものが、地域に合うイノベーションだと考えている」と三枝氏は言います。

「スナバ」での日常の様子

施設の運営は塩尻市が担い、地域おこし協力隊や業務委託の方々と運営チームを結成。職員が自ら運営に携わりノウハウを得ることで、施策に落とし込むチャンスができることや、施設に公共性が出てくるので、外部と自然につながっていけるメリットもあります。

施設名の「スナバ」は、そこに行けば誰かがいて誰かとつながる。つくって工夫して、を繰り返すことができる場所、まさに「公園の砂場」をイメージ。ミーティングスペースや共用キッチンなどで構成された施設内のデザインは、人のしたいことによって特性の変わる“ガレージ”から着想し、日常的に手の加えられる自由度の高い内装が意識されています。県木材の活用や、暖炉や黒板などもあり、想像力が掻き立てられるような空間です。

木材を取り入れた外観

スナバで生まれるもの地域課題の解決に向けて、共に創り上げていける人を求めているため、ドロップイン(一時利用)は受け付けておらず、完全会員制。運営者は入会を希望する人に、これまで何をやってきたのか、これから何をやっていきたいか、趣味や人柄も含めてインタビューを行い、その人についてしっかり把握します。そうした情報を運営チーム全員で共有しながら、会員の「やりたい」をサポートしていきます。会員数は、2019年が22名、2020年には44名、202111月現在では85名と、大きく伸びています。会員は、長野県内外からお試し移住で塩尻に来た人や、二拠点で生活する人、Uターンした人など、さまざまだといいます。

共用キッチン

スナバメンバー紹介コーナー

ここでは地域の景色を変えるような活動も徐々に生まれています。草野氏は、大門商店街をフィールドとして、定期的に「大門マルシェ」を主催。また、スナバのメンバーが商店街の空き家を借り事務所として使いながら、月に2、3回、様々な人にテンポラリーのお店として貸し出す取り組みなど、商店街の活性化にも一役買っています。また、スナバに通う小学生がプログラミングにはまり、その楽しさを伝えたいという想いから、周囲の大人を巻き込んで親子が楽しめるプログラミング教室に発展した例もあります。

イベント時の様子

〝自分はどういう人間か?〞を見てくれる

草野氏は、元々大阪で働き独立を考えていたとき、スナバに出会いました。スナバに惹かれた理由は、「大阪で働いていたときは、肩書や経歴が重視されたが、ここではその人の個性やキャラクターが大事にされ、自分らしく活動できることに魅力を感じた。また、塩尻は、同じことをやってもまちへの波及が実感として掴めるちょうどよいサイズ感で、何かを始めるフィールドとして適している」と話します。一人ひとりの個性が生かせるこの場所で、今後もシビック・イノベーションは続きます。

 

コワーキング施設「富士見 森のオフィス」

標高1000m、八ヶ岳と南アルプスを望む大自然に位置する富士見町。駅から車で5分、木々に囲まれた場所にコワーキング施設「富士見 森のオフィス」が201512月オープン。現在は宿泊棟も併設されたこの施設について、運営を行うRoute Design合同会社代表の津田賀央氏に話を聞きました。

津田賀央氏(Route Design合同会社代表、森のオフィス運営者)

「コワーキング」の価値

富士見町では2013年頃から、人口減少を食い止めるための移住促進施策として「富士見町テレワークタウン計画」を進めてきました。当時東京で民間企業に勤めていた津田氏は、「今とは全く違う環境で個の能力を生かして働きたい」と考えていた矢先、富士見町に出会います。そうして、役場が構想していたテレワーク施設のコンセプトづくりに関わることになりました。

当時はコワーキング施設もあまりなく、町としてはサテライトオフィスを考えていましが、津田氏は「単一の企業が入居して働くよりも、個々が集まってコミュニティづくりをするほうが価値がある」と提案し、現在の形態に至ります。

施設は、元々大学の保養所であった建物をリノベーション。木造で吹抜け、大きな窓のある開放的な空間が決め手だったといいます。屋内はコワーキングスペース、会議室、企業向け個室型オフィス、食堂、キッチンなどで構成されており、屋外には、BBQなどが可能な、広々とした庭があります。

「富士見 森のオフィス」のコワーキングスペース

外観

広々とした庭

 

また、201910月に併設してオープンされた宿泊棟「森のオフィスLiving」には、4つの部屋と共有リビングや、イベントも可能な広々としたウッドデッキがあり、交流の場としても滞在を楽しむことができます。

併設する宿泊棟「森のオフィスLiving」

「知恵をつなげる」をミッションこの施設では、〝地域のさまざまな知恵を集積し、それをつなげることで、仕事や生活に役立てること〞をミッションとし、〝これまでの慣習や常識にとらわれず、自分なりの働き方や生活を実現できること〞をビジョンとしています。

運営メンバー10名が軸となり、それぞれが自分の得意分野を生かしながら、誰かと誰かをつなげるために日々動いています。そうしたつながりの成果として、ここに来て仕事の悩みが解決したり、プロジェクトが生まれたりします。日頃から利用者と仲良くなっておくことで、何か相談が来たときに「あの人だったらこれができる」とすぐにつなげることができます。

利用者は基本的に誰でも受け入れていますが、特にこの場所にぴったりなのは、好奇心旺盛で、人と話すことや人の相談に乗ったりするのが好きな人。「お互いの関係性を深めていく中で、自然発生的にプロジェクトが生まれるので、おのずと前に進めるモチベーションも高まっていく」と津田氏は言います。

最近ではメディアの取材などで認知度が高まり、利用者は増え続け、現在、会員登録者数は1000人を超えます。いつかは移住を考えている人や、山が好きで町に来た人など動機はさまざまで、年齢層も比較的幅広いといいます。利用者の職業は、当初は場所を選ばず働けるフリーランス人材が多かったものの、コロナ禍でテレワークが普及してからは、メーカーなどの一般企業に勤める人の利用も増えています。

「富士見 森のオフィス」の施設外観とリンクしたデザインのビデオ会議ブース

次の5年後を見据えた新しい働き方

先駆的にコワーキング施設に着目し、新しい働き方を達成している富士見森のオフィスが見据える先は、これから5年後の働き方。2020年から、環境負荷を減らして働く「GREEN COMMUNITY」を掲げ、コワーキング施設としてできるさまざまな環境配慮の取り組みを展開しています。津田氏は、「『サステナブル』は今やビジネスチャンスではなく、ビジネスをする上での前提条件だと捉えている」と言います。また、富士見での生活は山などの自然が身近にあり、おのずと環境を意識するようになる。都会に住んでいたら得られない感覚だったと思う」と語りました。

まちづくりの情報発信「CITY in CITY vol.33より抜粋)

テキスト:公益社団法人全国市街地再開発協会

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