インタビュー

〝片づけ〞の善し悪しは空間の強度で決まる。ー鈴木信弘ー①

おかげさまで「建築知識」は2021年7月号で通巻800号記念を迎えました。それを記念して、『片づけの解剖図鑑』の著者である鈴木信弘氏(鈴木アトリエ)に、「建築知識」での思い出や、書籍誕生に関する秘話、これからの家づくりについてお話を伺いました。セミナー動画もご覧ください!!

始まりは韓国での現地取材

 「建築知識」は学生のころからよく読んでいました。建物のイメージというよりは、実際の納まりや寸法などが細かく載っていて、真面目に勉強したい人が読む雑誌という印象でしたね。初めて「建築知識」を手に取ったのは、大学2年生の時だったと思います。

 小劇場を設計する課題があって、その参考書として「1983年10月号―小ホール 手づくり演技空間のすすめ」を読んだのを覚えています。レポートを作成する際に、ロールバックチェアの設置に関連する内容を調べていた、と記憶しています。 

 卒業して設計の仕事を始めてからも、勉強のために読んでいました。なかでも現在私が理事を務めている、新住協(新木造住宅技術研究協議会)でお世話になっている鎌田紀彦先生が執筆した記事は熱心に読みましたね。

 たとえば、「1987年1月号―北国に学ぶ [暖かい住宅]北海道探訪編」は、高断熱化・高気密化の先進地域である寒冷地での取り組みを引合いに出しながら、木造住宅(在来軸組構法)における断熱・気密・外壁通気・内部結露などを紹介した内容。通気層の厚みは18㎜必要、というのはその当時に知りました。

 「建築知識」に著者として初めてかかわったのは、「1988年10月号―[東アジア現代住居学]韓国④」という連載でした。日韓併合(1910年)した際、韓国では日本の伝統的な中廊下型の間取りをつくったのですが、戦後に日本から独立した後(1948年)、結局廊下のないホール型の間取りに戻りました。

 その変化について、ハウジングスタディグループで連載記事を執筆。現地まで同行させていただきました。後に、『現代住居学 マダンとオンドルの住様式』(現在は絶版)として1990年に書籍化されています。

 

“ローコスト特集”の常連

 本誌特集に著者として登場したのは、「2001年9月号―[ムク板×フローリング]まるごと床道場∞unlimited 」という特集。建物を部位別に分けて、さまざまな内装の仕上げを紹介した特集です。

 私は竹フローリングを使った超ローコスト事例を紹介しました。その当時、設計事務所に設計を依頼する建築主は〝低予算〞〝変形敷地〞〝傾斜地〞といった、条件が厳しい人ばかり。ある意味、設計者の首を絞めてしまうというデメリットもありますが、このような内容の特集は多かったですね。

 実際に使用した竹フローリングは中国からの輸入材で、施工を頼んだ工務店に紹介してもらったもの。しかしながら、とても滑ります。実際の誌面にも「竹フローリングの表面は艶消し塗装であるが、非常によく滑る」と、堂々と解説しています。まあ、二度と使うことはないでしょうね(笑)[①]

 

竹フローリングのほかには、デッキ材として使用されたケンパスも紹介されている。東南アジア産の広葉樹で、鉄道の枕木に使用されるなど、耐久性が高く、ウッドデッキ材としての性能は申し分ない。目がかなり粗いため、表面にリブ加工を施してから敷設したという

 

 その後は定期的に執筆依頼が来るようになったのですが、特に印象に残っているのは、「2005年2月号―部屋別で分かりやすい 「内装設計」ディテール便利帖」です。同特集は、部位別(部屋別)に木造住宅のディテールを紹介するという企画で、私以外に、水澤工務店伊礼智さんが執筆を担当されました。

 水澤工務店は高級な和風住宅で使用される納まり、伊礼智さんはi-worksにおける標準化された納まり、私はローコストという条件のなかでの工夫された納まり、という具合に3つのグレードに分けて整理れています。

 同特集号の後に、伊礼さんは一躍工務店の人気者になり、スターダムを駆け上がっていきましたね。同号は売行きも非常に好調。O編集長の計らいで、神楽坂の料亭で打ち上げを行ったのもよい思い出ですね。

玄関廻りについての解説。当時、建築主から要望の増えていた木製建具について。木製建具を製作し、それを上手に納める方法について図面とともに説明

 

 「建築知識」は、イメージではなくディテールや寸法など実務的な内容が載っていて、私にとっては、テキストのようなものです。インターネットがない時代には唯一の情報源でした。今でも一人で孤独に設計事務所を営んでいる人にとってはバイブルなのではないでしょうか。

 最近は、YouTubeで偏った知識を身に付けてから家づくりを依頼してくる人が増えたので、これからの「建築知識」には一般ユーザーの建築への意識を高めるような情報を提供してほしいですね。

〝知らないことが書いてある〞ことももちろん重要。常に最新情報は載っていてほしいところ。個人的には、仕事のスタイルも大きく様変わりしていくと思うので、戸建住宅の規模でBIM(Building Information Modeling )を、ほかの設計者がどのように使いこなしているのか、というケーススタディを掲載してもらえるとありがたいです。

 

※ 本インタビュー記事は「建築知識2021年7月号 ありがとう! 800号記念特集 最高に楽しい間取り」に掲載したものです。

 

鈴木 信弘[すずき・のぶひろ]
1963年神奈川県横須賀市生まれ。一級建築士、神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。横浜の建築家グループ「area045」会員。’88年神奈川大学大学院修士課程修了後、’96年まで東京工業大学工学部建築学科助手を務める。独立後、横浜市に鈴木アトリエ一級建築士事務所を開設。主な著書に『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)

 

②につづく

「建築知識」通巻800号記念特別インタビュー:“住まい”の設計は無目的を旨とすべし。―増田奏―はこちらから。

「建築知識」通巻800号記念特別インタビュー:「たまり」のある〝間取り〞が成功の方程式―飯塚豊―はこちらから。

Infomation―高断熱・高気密住宅で広がる住宅プランニングの可能性

 鈴木信弘さんは、デザイン性だけではなく断熱性能や耐震性の高い住宅を設計しています。2021年11月に実施されたジャパンホームショー2021・建築知識実務セミナーでは、建物を高断熱・高気密にすることで建物のプランがどう変わるのか、設計の際の注意点について解説いただきました。

 

 

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