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【PR】「図面を書く意味とは?」建築教育のリアル①

「建築学科を卒業したにも関わらず、実務設計の知識がない!」と新人教育で嘆く実務者の声をよく聞きます。この連載では、「実施設計を行い、実際に家を建てる」というユニークな授業を行う学校法人フェリカ学園 フェリカ家づくり専門学校で教える教師に取材。連載1回目は、実践的な授業の中身と図面に描かれる線の大切さについてです。

学生時代に時間をかけて家を建てる経験をする

フェリカ家づくり専門学校(詳細は記事の最後)で行う実施設計の授業では、意匠図にとどまらず構造や設備に関する家1軒分の数十枚にもなる実施設計図書を描いています。

実施設計で2019年に竣工した「街道沿いの家」

3年生から始まるこの授業のために学校は土地を購入。そして、一級建築士である教員と学生とともにその土地に合った家を設計し、施工を行います。もちろん、施工監理や予算管理にも学生たちは携わります。

コンセプトから実施設計、施工監理まで学生と一級建築士の教員が一丸となってプロダクトを進行する

敷地内で、植栽計画を行い、実際に植栽を植えることもある

建てられた家は実際に建売住宅として売りに出されます。このようにして、同校では、毎年違う土地に新しい住宅を建設しながら、学生に生の現場を体験できる環境を整えています。

同校の家創り実践科(4年制)を卒業した長谷川尚樹さんは当時を振り返ります。「実際に住宅を設計するということは2年生までの架空の設計とはケタ違いの質量でした。自分たちの意思を相手に伝えるための詳細な図面を描き、部位の納まりなど、分からないことを調べ、教わりながら進めていきます。構造・設備は、実務でしか知り得ないことも学び、工事が始まれば毎日のように現場に通って進捗を観察しました。関わった職人の方たちとものづくりの時間を共有できたこともよかったです」。

卒業生の長谷川尚樹さん(左)、学校長でもあり、一級建築士でもある仲川孝道さん(右)

同校の学校長でもあり、一級建築士でもある仲川孝道さんは話します。「当校では3年生から4年生の約1年半、じっくりと時間をかけて1棟の家を設計・施工しています。リアルでしか体験できないこれらの時間の積み重ねが、卒業後、他者との差になって表れると思うのです」。

意思を伝えるための図面になっているか?

詳細な図面を作成する中で、一本の線の意味を理解し、自らの意思を伝えるために線を引くことを、実施設計の授業を通して学生に伝えているそうです。しかし、ディテールの出来上がりイメージとその施工方法を押さえた詳細図となれば、学生の想像力だけでは到底手に負えません。なので、設計と施工に精通した一級建築士の教師から1つひとつ教わりながら描いていきます。そして、図面と実際の現場を監理(照合作業)することで、設計者である学生自身初めて図面の線の意味を理解することができます。

ある学生は「入学当初、線を引く練習をするのは面倒くさい」と思っていました。しかし、実施設計で学んでいくうちに、一本一本の線に意味があるということを知ったと言います。

現場に通い、図面の線がかたちになる様子を追っていく

職人と現場で打ち合わせをする体験もする

仲川さんは話します。「図面に描きこまれる情報量こそがこの教育の肝と考えています。たとえば、窓を設けるための線1つにしても、こんな疑問を学生に投げかけます。窓は一体何のためにある? 何故そこに必要だと思う? 光が入る、空気を入れ替える、景色を眺める、窓自体が景色を切り取るような役割もあるかもしれない。また、見えないけれど風が抜ける窓とか。さまざまな気付きを期待して投げかけるようにしています」。

窓がそこに必要な意味を考え、図面に落とし込む

こうした具体的な学びは大学の建築学部を出ても、建築士資格試験の学習をしても触れてこない道です。建築のつくられる姿を目の当たりにし、1本の線の重みを知ってこそ、その先の設計ができるのではないでしょうか。

取材先「学校法人フェリカ学園 フェリカ家づくり専門学校(※)」

建築・インテリアのプロフェッショナルを育成するための学校。学校側が土地を購入し、設計・施工までを行う超実践な家づくりの教育で注目を集めています。
家創り実践科(4 年制)にて家づくりのAtoZ を学びたい学生を全国から募集。3 年次編入枠有り(対象:大学建築学部卒又は二級建築士所有者のみ)。
※フェリカ建築&デザイン専門学校は2022 年4 月より名称を上記に変更する
[公式サイト]https://felica.ac.jp
[所在地]群馬県前橋市南町2-38-2
[TEL]0120-343-750

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