建築物の木造化・木質化。それを実現するに当たって大きなハードルとなるのが、火災です。とりわけ、可燃材料である木材を現しとする場合には、細心の注意が求められます。火災とは、熱(炎)と煙が成長する災害であり、最悪の場合は糸魚川市大規模火災(2016年)のように、市街地火災にまで発展するおそれがあります。対策には、まず、火災のメカニズムを正しく理解する必要があります。建築物の防耐火設計に精通する安井昇氏(桜設計集団)は次のように語ります。
「火災とは、可燃材料・酸素・熱という3つの要素が重なって発生するものです。3要素のうちの1つがなければ、発火することはありません。したがって、火災を防止するために心がけるべきことは、3要素から少なくとも1つを排除すること、言うことができます」。
火災の拡大を防ぐには、防災のタイミングも重要。出火防止(火源・燃料を増やさない/可燃材料を火源・燃料の近くに置かない)・早期発見(自動火災報知機の設置[消防法施行令21条])・初期消火(消火器具・屋内消火栓設備・スプリンクラー設備の設置[消防法施行令10〜12条])を徹底することで、火災の成長を可能な限り早い段階で食い止める備えが重要です。
こうした対策を前提として、建築基準法では、主に3つの観点から、避難や消火活動が無理なく行えるような防耐火設計が義務付けられています。
①火炎が建物内で燃え拡がらないようにすること
内装仕上げ材の不燃化(準不燃化)によって、火災の燃え拡がりを抑制する内装制限[建築基準法35条の2]があります。
②火災で建物が壊れないようにすること
用途地域、建築物の用途・規模(階数・延べ面積)に応じて、耐火構造[建築基準法2条9号の2]と準耐火構造[建築基準法2条9号の3]という2つの構造制限が設けられています。耐火構造とは、火災で建物が倒壊するのを防ぐ構造であり、火災終了後も建物が倒壊することはありません。準耐火構造では、建物内にある収納可燃物や建物の内外装が燃焼している間は、火災で建物が倒壊するのを防ぐことができます。
MEMO “耐火建築物”と同等の“準耐火建築物+α”という概念が登場
防耐火規制ではこれまで、建築物を〝その他の建築物〞〝準耐火建築物〞〝耐火建築物〞の3つに分類してきましたが、2019年6月末施行の改正建築基準法によって、〝耐火建築物〞と同等の性能をもつ〝準耐火建築物+α 〞という概念が登場しました。従来の〝準耐火建築物〞を上回る性能をもつ建築物です。
その他の建築物
準耐火建築物
準耐火建築物+α
耐火建築物
③隣接する建物からの火炎が建物内へと燃え抜けないようにすること
市街地火災を防ぐための方策であり、延焼の防止と言い換えられます。隣接する建物からの火炎を建物内部に燃え抜けさせない手立てとして、防火構造[平成12年建設省告示1359号]・準防火構造[平成12年建設省告示1362号]や防火設備[平成12年建設省告示1360号]があります。
※ 建築基準法における主要構造部とは“防火・避難の観点からの主要な部分”という意味合いが強いもの。壁・柱・床・梁・屋根・階段を指します。構造性能にかかわる構造耐力上主要な部分、とは定義が異なる
つづく