住宅 建築 インタビュー

「断熱は“適材適造”」寒冷地で別荘をつくる方法ー②

自然豊かな北海道、特にニセコや富良野では、外国人の不動産投資が活況。自然と一体化したダイナミックな建築が数多く計画されています。今回は、外国人向け別荘の設計を数多く手がける須藤朋之氏(SAAD/建築設計事務所)に、建築計画や断熱・気密の考え方をお伺いしました。

工程管理と断熱・気密設計

設計から施工で留意すべきは、雪深い冬の時期に工事に負担がかかってしまうことです[※]。12月〜4月までは工事を行わないと想定して業務を進める必要があります。加えて、冬の休暇に合わせて入居を希望するクライアントが多いので、12月に引渡しを行うこと想定をして、11月に竣工するようにスケジュールを組むことが望ましいのです。

「雪の影響で、工事期間は長くなりますが、逆に冬の期間を実施設計の期間に充てられる、ととらえます。前年の11月までに基礎工事を完了。養生を行って4月以降に本体工事を行うイメージです。したがって私は、建築主と施工者との契約を2段階に分けていただいてます。確認申請受け取り後、基礎工事契約を行い、その間に本体工事契約に合わせて実施設計の精度をあげます」(須藤氏)。

須藤氏が手がけるプロジェクトは、高気密・高断熱住宅の分野で定評のある須藤建設が施工を行っている。北海道といえば厳寒地。どのような断熱・気密設計を行っているのだろうか。

「別荘ということもあり、滞在期間があまり長くないことから、一般的な戸建住宅で提案しているハイレベルな仕様での設計は求められていませんが、次世代省エネ基準レベルの断熱性能を想定しています。ただし、暖気を逃がさないように、気密性能には徹底してこだわっています」。

 

※ 養生や光熱費、現場の除雪作業など。塗装、左官工事、コンクリートなどの工事では、凍害により剥離や白華が起こりやすい。一方、冬期を休暇に当てると、ほかの現場工事を職人にお願いすることが可能になる

 

Note 構造に合わせた断熱手法 

①RC造外断熱

建物の形状がシンプルなRC造では、押出法ポリスチレンフ ォーム「スタイロフォーム」(デュポン・スタイロ)による外断熱を行う。合板の内側に断熱ボードを立て込んだ後、その内側に配筋。続いて、コンクリートの打設・養生へと進む

②RC造内断熱

建物の形状が複雑なRC造では、躯体に合わせて断熱層を形成しやすい吹付け硬質ウレタンフォームによる内断熱としている。梁が取り合う棟部にも隙間なく断熱材が充填されるので、気密性を確保しやすい。「エアライトフォーム」(日清紡ケミカル)を使用

③木造充填断熱

木造(在来軸組構法)の場合は高性能グラスウールを使用した軸間充填断熱を行う。間口部は気密層が切れてしまう ので、窓を取り付ける前に先張りの防湿気密シートを張り込む。「太陽SUN」(パラマウント硝子工業)を使用

 

「RC造では、建物の形状がシンプルな場合はRCの蓄熱効果が期待できる外断熱、複雑な場合は内断熱として、気密性能の確保が容易な吹付け硬質ウレタンフォームを採用しています。木造の場合も、高い気密性能を確保すべく、裸のグラスウールを使用したうえ、防湿気密シートで別途気密処理を行うようにしています」(須藤氏)。

下から暖めるのが暖房の基本。〝頭寒足熱〞の状態をつくり、無理にエネルギー負荷がかからないようにしています。温水パイプを床下に敷き込み、窓下に設置した銅製コイルの電気ヒーター「PS+O」(ピーエス)に接続。ガラリを通して暖気を上昇させ、コールドドラフトを防ぎながら対流させます。

 

CASE2 RC造内断熱 大開口と内外装の統一で自然と融合/Yukikage

南面の全面開口越しに羊蹄山が一望できる別荘「Yukikage」。天井のウエスタンレッドシダー仕上げの張り方向が開口部に向かっているので、空間に広がりを感じる。ダウンライトには、窓への映り込みが少ないグレアレスタイプを採用しているので、夜景もきれいに見える。「LZD-92004YBE」(大光電機)を使用

室内の天井はウエスタンレッドシダー仕上げ。特に2階は軒天井も同材仕上げとなっているので、連続した天井により、空間に広がりを感じる

L字形の平面、かつ南側に壁面(耐力壁)が一切ない複雑な構造。南側は、屋根荷重(鉛直荷重)を支えるために鉄骨(丸鋼)の柱を開口部のサッシ位置に合わせて並べるとともに、水平荷重については、北側の耐力壁を分厚く(400㎜厚)するなどして対応している。室内に突き出た耐力壁はキッチンとパントリーの間仕切壁などとして活用

軒天井部分はRCのスラブを薄くして軽やかに見せている。屋根は3寸勾配で軒の出は2.2m。窓際の鉄骨柱(丸鋼φ100)が鉛直荷重を負担している。黒く塗装(OP)してサッシ枠と同化した。断熱は建物の形状が複雑なため、内断熱を採用。壁と屋根には吹付け硬質ウレタンフォーム、床は押出法ポリスチレンフォームを採用。1階の床は土間コンリート仕上げとして、温水パイプを敷き込み、コンクリートを打ち込んだ。一方、2階は乾式2重床のフローリング仕上げとし、同様に温水パイプを敷設している。1階外壁の垂壁には北海道産のスギ羽目板を使用。2階天井よりも雪などによる腐食のリスクが少ないことを考慮し、地元産の材料を仕上げ材に選定した

L字形の平面と大きく跳ね出した軒天井、全面開口が印象的。RCラーメン造2階建て(地下1階)で、2階は、軒天井・室内天井とともに、耐候性の高いウエスタンレッドシダー羽目板張りで仕上げられている。外壁・軒天井のコンクリート打放し仕上げも、スギ板本実型枠を使用。建物全体を木の質感で整えた

キッチンとダイニングを見る。この位置からも羊蹄山を望める。キッチンの奥に見えるオーク突き板の壁は耐力壁を利用したもの。窓際の開口部には丸鋼の鉄骨柱が確認できるが、サッシと同化して見えるため、気にならない

リビングは小上がりとなっており、ダイニング・キッチンよりも150㎜床面が高い。床をあえて上げることで、リビングの設えをひとつながりの空間における“舞台”のようにした。手前の壁に見えるのは人気急上昇中のバイオエタノール暖炉「エコスマートファイヤー」(メルクマール)

 

「エコスマートファイヤー」の記事はこちらから 

 

須藤朋之[すどう・ともゆき]
2005年Southern California Institute of Architecture[SCI-Arc](Los Angeles, USA)学科卒業。’05〜’07年Amphibian Arc(Los Angeles, USA)に勤務。’09年Architectural Association School of Architecture[AADRL](Londond, UK) 修士課程修了。’09〜’13年にフロリアン・ブッシュ建築設計事務所( Tokyo, Japan)に勤務。’14年に独立後、’15年にSAAD/建築設計事務所設立

 

写真=益永研司

 

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続く

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