住宅

「トイレのにおい騒ぎ」低気密低断熱住宅ルポ⑨

こんにちは。一級建築士の神長宏明です。私は、エアコンを24時間つけっぱなしでも月々の光熱費が1万円以下で済む高気密高断熱住宅を設計していますが、住んでいるのは【低気密低断熱住宅】です。この連載では、低気密低断熱住宅の住み心地を数回に分けてレポートしていきます。9回目は、トイレの換気問題です。

神長家の概要
■家賃:約9万円/月(3,250万円のローンを組んだときと月の返済額は大体同じ)
■立地:宇都宮駅から車で15分
■築年数:築29年(1991年8月竣工)
■延べ床面積:125.44㎡(37.94坪)
■断熱性能:築年数と天井断熱材の状況から昭和55年基準と推定(昭和55年区域区分Ⅲ・栃木県・Q値4.7)。無断熱ではなく、断熱材は気持ち程度入っている状態

間取りは、一般的な玄関ホールを挟んで、LDKと和室に分かれている。2階の15帖の洋室は神長さんの仕事部屋として使っている

 

トイレの換気ができず、においがこもる!

前回のクロゼットの異臭に引き続き、今回は家のなかで一番においの気になる「トイレ」についてお話します。家の気密性能が低いと起こる、おそろしい事実も分かりました。

■換気ができない密室トイレ
築29年のわが家は2003年に義務化された「24時間換気」が存在しません。なので、トイレに換気扇がありません。

その代わり高窓があります。ただ、高窓の取っ手の位置は床から1.6mの高さにあるので、身長161㎝の私には開閉しにくい。さらに、高窓の網戸の取っ手は、引っ越した当日に割れて壊れてしまいました(笑)。

換気扇のないトイレ。窓は高くて手がなかなか届かず、窓の開閉が億劫である

 

こうして、換気扇なく窓も開けない密室のトイレができあがりました(苦笑)。
当然ですが、トイレで用を足した後はずっとにおいがこもっています。瞬間消臭スプレーを使っていますが、効果は薄い……。

「窓を開けっぱなしにすればよいのでは?」と思うかもしれませんが、窓を開けただけではにおい(臭い空気)は外に出ていきません。換気には入り口(給気口)と出口(排気口)が必要だからです(換気の出入り口の話は連載⑧「クロゼット内の異臭」を参照ください)。

■トイレのにおいが部屋へ流出!?
それどころかトイレのにおいがほかの部屋へ流れるというさらなる問題が発覚しました!

連載⑦「冬もカビが生える浴室」でも触れましたが、浴室の湿気がものすごいため換気扇を常に回しています。すると、トイレのにおいが浴室に吸い寄せられるのです!
さらに、キッチンの換気扇をONにすれば、トイレのにおいはキッチンエリアに流出していきます!!

浴室の換気扇を回すと、トイレの窓まわりの隙間は給気口となってしまう。結果、トイレのにおいが浴室に流れる。キッチンのレンジフードも同じ状態になる

トイレのにおいが換気扇排気口のある部屋に引き寄せられる

なぜトイレのにおいが流出するの?

排気と給気の空気の流れを見てみよう
排気と給気で出入りする空気の量を考えると、におい流出の原因がつかめます。

浴室やキッチンの換気扇を回すと、強制的に家の中の空気が外に出ていきます。そのため、家の中は「負圧」となります。

「負圧」とは、空気が吸われて気圧が低くなっている状態です。たとえると空気を抜いた「布団圧縮袋の中」。逆に、空気を吹いて(押し込む)気圧が高くなっている状態を「正圧」といます。たとえると、膨らんだ風船の中の状態です。

換気扇を回して「負圧」となった家は、常に室内外を同じ気圧に保とうとするので外から空気を取り込みます。24時間換気の家であれば、給気口がきちんとあるのでそこから家の中に空気が入ってくるのですが、冒頭で触れたとおり、わが家には給気口がありません。

そのため、主にトイレやリビング、玄関などの気密の低い窓まわりから、空気が入り込んでくるのです。下記の図のような状態です。

家の窓まわりや玄関まわりの空気が給気口となり、キッチンの排気口から吐き出される

 

冬の寒い日に、息子が玄関からリビングに通じるドア付近で遊んでいたのですが、突然遊ぶのをやめてドアに手を当てて、「ここから冷たい空気が入ってくる!」と言っていました。息子は、なぜ冷たい空気が入ってくるのか、不思議そうに考えていました。原因はキッチンの換気扇を回していたので、上記の図のように冷たい外の空気が吸い寄せられている状態だったからです。

扉に手を当て、寒がる息子

 

やっかいなことにキッチンの換気扇は浴室の換気扇よりたくさんの空気を排気します。なので、トイレのにおいは調理中のキッチンにより多く吸い寄せられます。

ここまで読んでいただければ、トイレの窓が「におい対策」においていかに無意味なのか分かっていただけたと思います。窓を開けてしまうと完全なる給気口として働き、空気に乗ってトイレのにおいも一緒に換気扇を回している部屋に向かうのです。

家をつくるときのアドバイスとしては、トイレに自然光の明るさがほしい場合はFIX窓がお勧めです。

■家中の隙間から冷たい空気が入ってくる!
上記の図は、分かりやすいように窓まわりを中心に空気の流れを説明しました。ただ、実際にはわが家は気密性能が低いので、窓まわり以外にもコンセントまわりなどの目に見えない小さな隙間からバキュームのように空気が入ってきています。

また、わが家は外壁や屋根面の構造用面材で気密を確保する「ボード気密」や、シートを張って気密を確保する「シート気密」のどちらもありません。つまり、換気扇を付けるとあらゆるところから外気を吸い込むスカスカな家なのです。

その証拠に、キッチンで換気扇を付けると、トイレのにおいだけでなくあらゆる場所から冷たい空気が入ってきて、寒くて料理どころではありません(涙)。

私が設計する高気密高断熱の家では、下記のようにしっかり気密を行うことで、見えない隙間からの空気の侵入を防ぎます。

シート気密は、室内側の防湿・気密シート(写真の黄色いシート)で気密を確保する方法。
シートの重なる部分はテープで留めてシートを連続させていく

ボード気密は、外壁側の耐力面材で気密を確保する方法。ジョイント部はテープで隙間を塞ぐ

ボード気密の場合でも防湿・気密シートで室内側の断熱材を覆う。この場合は「防湿」としてのみ作用する

■最終兵器! トイレに換気扇を設置
トイレのにおいをほかの部屋に流出させないようにするためには、トイレの空気を強制的に吐き出す換気扇を設置するしかありません。費用は、工事費を含めると約5万円です。

ただし、トイレに換気扇を設けたとしても、換気扇に外気を遮断するシャッターがない場合は、換気扇のOFF時は孔が空いているのと同じなので、別の部屋の換気扇を回すと給気口になってしまうので注意が必要です。

換気扇を回しているときは、シャッターが開く。OFF時はシャッターが閉じるので、外気が入ってこない 出典:パナソニック「VB-BG100S,VB-DG100S3(風圧式シャッター仕様)

さて、この解決方法ですが、わが家は賃貸なのでトイレに新しく換気扇を付けることはできません!!

なので、トイレのにおい問題は永遠に解決できません(涙)。バッドエンドです。

□コラム「給気口と排気口の大きさ問題」
換気の設計をするときの注意点を補足でお話します。

排気口から200(㎥/h)という空気が排気されるとき、同じ量の200(㎥/h)の空気を補充できる給気口を設ける必要があります。

このとき排気口の直系が150㎜なら、給気口も150㎜にします。
排気口が150㎜、給気口75㎜x2個=150㎜という考え方は間違いです。

断面積に着目してください。
排気口150㎜の断面積は0.017㎡、給気口75㎜の断面積は0.004㎡で、2つ合わせても0.008㎡にしかなりません。

つまり、75㎜の給気口は4つでは微妙に足りず、5つ必要になります。

排気口と給気口の断面積の大きさが違うと、十分な換気ができないので注意してくださいね。

 

次回は、換気についての基礎知識と効率のよい換気方法についてです。

次回予告
・気密性能と換気の関係とは?
・C値を正しく知ろう
・実は、換気できていない箇所がある?
・効率のよい換気方法

前回の記事:連載⑧「クロゼット内の異臭」はコチラ

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