第1回工務店編集会議では、松村秀一先生に「戦後の住まいの変遷と3つの民主化」というタイトルでお話しいただきました。
過去80年の住宅業界を振り返る
戦後の1945年以降、約80年の間に住宅とそれをつくる人、そして住む人の関係がどのように変わってきたのかを解説されました。
大きく分けると住宅業界は3世代に分かれています。
①1945年~1973年 第1世代「とにかく量産! よいものは量産する時代」
②1973年~2000年 第2世代「プレカットの登場! 選択の自由が増えた時代」
③2000年~ 第3世代「箱から場へ! 構想力の時代」
この3つの世代でのキーワードは「民主化」。
ここでいう民主化とは、住む人の主体性が徐々に大きくなってきたということを意味します。
それぞれの世代を見ていきましょう。
①1945年~1973年 第1世代「とにかく量産!よいものは量産する時代」
”君みたいなお嬢さんは量産されるべきだ。”「我等の生涯の最良の年(The Best Years of Our Lives)」という1946年のアメリカ映画のなかの1コマで、主演男優がヒロインに“とても魅力的である”という意味を込めて伝えたセリフです。今だったら、こんな口説き文句を使う男性は相手にしてもらえないでしょう。この時代、「よいものは、いっぱいつくろう!」というように、大量生産はポジティブな表現だったのです。
アメリカの住宅産業も同じく、1950年代に1万7,000戸を郊外につくったプロジェクト「レヴィットタウン」に代表されるように、住宅は大量生産されていました。
一方、日本(’60~’73)住宅戸数は、2,180万世帯に対して2,110万戸。家がない人に、健全な住環境を届けることが使命の時代です。この頃に、プレハブ化、工業化、標準化、部品化が行われ、セキスイハウスやダイワハウスなどが出てき始めました。同時に多くの工務店も出現しました。
「ハウスメーカーが後から出てきて…」と言う工務店もいますが、同時代並行的にハウスメーカーも工務店も出現していたのです。
そして、技術の向上とつくり手が増加した結果、1963年は68万戸の新築をつくっていたのに対して、10年後の73年は190万戸を建てることができるくらい生産力が上がりました。
②1973年~2000年 第2世代「プレカットの登場!選択の自由が増えた時代」
環境問題や石油などの有限な資源が問題視され「成長の限界」にぶち当たった時代。住宅業界では、積水化学工業から、セキスイハイムが誕生。工業化された部品を構造体に好きなように組み合わせて住宅をつくるシステムを発表しました。つまり、住まい手が家の形や素材など、あらゆるものを選択できるようになりました(選択の自由)。
この頃、プレカットが普及し、生産力も格段に上がりました。驚いたのは、1つの工場で管理している部品数が約200万個になっていたこと。供給された家に住むのではなく、住まい手が好きなように選ぶ”注文住宅”が当たり前になっていきました。
そして、1988年には、3,780世帯に対して、4,200万戸。住宅戸数が世帯数を超えました。
③2000年~ 第3世代「箱から場へ!構想力の時代」
2018年、5,400万世帯に対して6,240万戸、空き家率は13.6%。建物のストックが十分にある時代になりました。こうなると、住む人の考え方は全く変わってくると松村先生は話します。クールにいえば、まったく家を建てなくてよいともいえます。
また、スマホの普及により、あらゆる技術を誰でも簡単に手に入れることができます。今までとは違い、「箱」である住宅をきちんと誠実につくることは当たり前なのです。そんななかで松村先生がキーワードとしたのは、「人の生き方」です。
まだ答えは出ていませんが、つくり手は「箱」ではなく「場」をつくる構想力が必要になると、講演の最後を締めくくりました。
【人口当たりの住宅総数】
USA 0.42戸/人(2013年)
日本 0.48戸/人(2013年)
→ 戦前のストックが残っているアメリカと比べても、日本は空間資源が多いことが分かる。
地域で活躍する工務店・設計事務の未来の姿
松村先生の講演で、約80年の間に起こった住宅産業の変化を「民主化」をキーワードに振り返りました。
戦後はとにかくたくさんの住宅がマスプロダクションとして供給され、住まい手はそこに住むという時代から、プレカット技術などの向上により住まい手の好みに合わせてカスタマイズする注文住宅が登場しました。そして、住宅戸数が十分で余っている現在、住まい手の生き方が多様ななかで、つくり手は「箱」をつくるだけでは役不足なのかもしれません。
一方で、松村先生の「地域に密着した小さな工務店・設計事務だからこそできることはたくさんある」という言葉には、勇気をもらいました。たとえば、小さな修繕やリノベーション、ストック空間を利用した人と人をつなぐコミュニケーションの場、またはそれらのマネジメントなど。細やかかつ小回りの利く対応とスピードを生かした大きな会社ではできない提案が、小さな工務店・設計事務にはできると松村先生は続けます。この講演を聞いて、地域で活躍する未来の工務店・設計事務の姿が見えてきた気がします。
松村先生の講演に刺激を受けた参加者の声
最後に松村先生の講演を聞いた工務店・設計事務所の方の声を紹介します。
「家余りの時代は、ストック活用の時代。『利用の構想力』が問われている。
『箱』をつくることから『場』を作り、『生活者の生き方の実践を体現』させるのが、
ケンチクの役割になってきた」(オーガニックスタジオ新潟 相模稔さん)
「これからは自分がどう生きたいかということから住み手側が主体となって家づくりをする時代、セルフリノベ、カスタマイズ賃貸などはその流れ。工務店も断熱、耐震などの『箱』の性能は『あたり前』のものとし、箱を提供するのではなく、その人らしい生き方の『場』を提供するという意識が必要との指摘もあり、設計事務所にとってもとても有意義な講演でした」(SUR都市建築事務所 浦田 義久さん Facebookより引用)
「住宅建築について歴史的に考えますと、そもそも住宅不足の状況があったために、量産型住宅によって住宅不足を解消することが至上命題とされていた時代背景があったということ。大量生産、マスプロダクションというわけです」(でんホーム 竹内正浩さん)
「『箱』つくりから脱却し、『場』つくりを行っていかなければならないということ。『まちに暮らしと仕事の未来を埋め込むこと』を行っていくことが、我々設計者や施工者が行っていくことであり、今後は建築を取巻く分野の『しごと』は大きく広がっていくとのことでした」(あすなろ建築工房 関尾さん)
次回(第2回 2月19日)の工務店編集会議はコチラ
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