建築 建材 インタビュー

西方里見と山田憲明の住宅用資材でつくる大規模木造②

“断熱・気密”の西方里見氏と“木構造”の山田憲明氏が設計を手がけた大規模木造「道の駅ふたつい」(秋田県能代市)。木造住宅で使われる汎用的な資材で計画された複合施設です。今回は、計画の概要と工事中・完成後の様子をレポート。地域産材を使った大規模木造の設計手法を徹底解説します。

特殊な金物が不要な組立梁

木造防火壁によって3つのゾーンに区画された「道の駅ふたつい」。架構で目を引くのは、何といってもアーチ状の大屋根に支えられたエントランス、多目的ホール、歴史・民俗資料コーナーの一角。21
・84mスパンの屋根は壮観です。

「アーチ状の屋根を無垢の一般流通材で支えるには、細く短い木材を組み合わせて、強度の高い骨組みをつくる必要があります。当初は、樹状構造などの案も出ましたが、必然的に柱が多くなるので、開放的で物をレイアウトしやすい無柱空間とはなりません。西方さんと話し合ったすえ、最終的にはトラスの原理を利用した大型のアーチ梁としました。4本のアーチ梁で屋根をしっかり支えられるので、積雪荷重1.5mの条件で、20mを超える大スパンを実現しています」(山田憲明氏)。

アーチ梁は上弦材と下弦材、束材、斜材という4つの部材で構成されています。鉛直荷重の負担面積を広くするため、材の取合いが可能な限り簡素な納まりとなるよう、3列の梁を一体化したユニークな梁材です。

 

加工場から運ばれた部材を、作業台の上で地組みしてつくられるアーチトラス。アーチトラスは4本で、写真は1本目のアーチトラスを組み立てた後の様子。1本当たりの組み立て時間は3日。細かい調整はこの段階で行う

アーチトラスを構成する部材の取合い。通常の仕口とは異なるため、この加工に対応できるプレカット加工機は限られる。ここでは、熟練した職人の手刻み加工で対応した

アーチトラスの頂点。アーチ梁どうしは直交する240㎜成の梁でつなぐ

アーチトラスと基礎を一体化している様子。ベースプレートから突き出すガゼットプレートに対して、アーチトラスの位置を調整しながら、慎重に落とし込んでいる

アーチトラスをクレーンで吊り上げている様子。1本を建て込むまでの所要時間は1時間程度

 

「中・大規模木造でアーチ型の構造を実現するには、湾曲集成材という選択肢もありますが、材料費がかさみます。ここでは、木材の曲げ加工は行わず、短い通直材(約3m以下)を順々につなげていくことで、アーチの形状を実現しました。2列の飼木を介して3列の梁を一体化することで、在来軸組構法ならではの篏合接合が実現しています。特殊な接合金物は使用していません」(山田氏)。
 
4 ・55mピッチで架けられた4本のアーチ梁は、巨大で重量もかなり大きくなります。「道の駅ふたつい」は、加工場で大勢の大工によって継手・仕口の加工がなされた無垢材を現場で地組みし、クレーンで吊り上げてから建て込むという順序で施工されました。

物販施設やレストランなどでも6mを大きく超えるスパンを実現するため、小断面の無垢材を利用した組立梁で屋根を支える方法を採用しています。スパン約11mの物販施設の屋根を支えるのは、下弦材を船底のかたちにした挟み張弦トラス。上弦材と下弦材、束材で構成される梁で、接合部での断面欠損を最小限にとどめるため、1本の梁の両端を2本の梁で挟んでビス留めする納まりを採用、それを連続させて、大スパンを支える梁材を短い材で構成しています。

レストランの屋根を支える方杖による連続トラスは、登り梁を両側からの方杖で支えるトラス梁。最大で約10mのスパンを実現しています。方杖と登り梁との接合部において、応力を効率よく伝える流れホゾとしたのがポイント。木材は篏合接合とビスによって強固に固定されます。

 

構造

アーチ屋根の断面図。アーチ梁は上弦材と下弦材、束材、斜材がいずれも現しになっており、基礎立上りに直接接合しています。アーチ梁を構成する木材(秋田杉)の成は最大240㎜、長さは3m以下で、一般流通材として安価に入手できます。天井の仕上げは、空間の中央部に音が集まる性質を考慮して、吸音効果のあるグラスウールをベースとした「GCボード」(パラマウント硝子工業)仕上げ。

 

 

アーチトラス

アーチトラスのディテール。3本の上下弦材と2本の斜材、束材が干渉しないように、水平方向に2本の飼木を挟み込んで、それぞれを仕口による嵌合接合で一体化している。特殊な接合金物を一切必要としないシンプルなディテール。引きボルトは木材内部に隠れる 

アーチ梁は土台を介さず基礎で直接支持する。金物工法のように、アーチ梁のかたちに合わせた基礎立上りの上には、ずれ留め程度の役割としてコンパクトなベースプレートとガゼットプレートを設けているが、基礎立上りの天端をアーチトラスに対して垂直になるように傾けることで、アーチトラスが負担する荷重を面タッチで基礎にまで伝えている。基礎立上りの高さが700㎜なのは、下弦材と通行者が干渉しないようにするため

 

挟み張弦トラス

1本の梁を2本の梁で挟み込んだユニットでつくる挟みトラス。600㎜程度の予長を設けて木材をつなぎ合わせています。これには、接合部の強度を向上させると同時に、見た目にアクセントをつける目的があります。

 

方杖による連続トラス

レストランの屋根を支える方杖による連続トラス。柱や束の位置に方杖を設けることで、連続したトラス梁を構成し、梁の応力と変形を抑制しています。

                                                                           

 

西方里見[にしかた・さとみ]

1951年秋田県能代市生まれ。’75年室蘭工業大学建築工学科卒。’81年西方設計工房を開所し、’93 年西方設計に改組。2004 年設計チーム木(協)代表理事に就任。木造高気密・高断熱建築の先駆者として知られ、『住宅が危ない! ③「外断熱」が危ない! 』『最高の断熱・エコ住宅をつくる方法 令和の大改訂版』『西方里見が選んだこの建材・設備がスゴい』(いずれもエクスナレッジ刊)など著書多数。「道の駅ふたつい」は木の建築大賞(’22 年)、「東北住建 新社屋」[写真]はウッドデザイン賞(’22 年)など受賞歴も多数

 

山田憲明[やまだ・のりあき]

1973年東京都生まれ。‘97年京都大学工学部建築学科卒業後、同年に増田建築構造事務所入社。2000年~’12年同社チーフエンジニアを務める。同年山田憲明構造設計事務所設立。‘13年~早稲田大学非常勤講師。第22回JSCA賞作品賞「国際教養大学中島記念図書館棟」、第14回木の建築賞 木の建築大賞「南小国町役場」、第23回木材活用コンクール 最優秀賞(農林水産大臣賞)「大分県立(昭和電工)武道スポーツセンター」、最優秀賞(国土交通大臣賞)「住友林業筑波研究所新研究棟」、2021年日本建築学会賞(作品)「上勝ゼロ・ウェイストセンター」などの木造建築において受賞歴多数。主著に『ヤマダの木構造 改訂版』(エクスナレッジ刊)がある

 

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③につづく

 

 

講演動画(山田憲明)—【建築知識】大径のJAS製材でつくる木造建築ー

 

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