建築

【PR】「学校を再活用した交流の場」働き方とまちづくり②

コロナ禍を経て、リモートワークなどの柔軟な働き方が一気に浸透しました。この連載では、多様化する働き方やそれらを受け止めるワークプレイス、またその周辺を取り巻くまちの活動について紹介します。連載2回目は名古屋駅付近の小学校をリノベーションしたインキュベーション施設「なごのキャンパス」です。

懐かしさが生み出す
「学校」を使った
交流・創造・発信の場「なごのキャンパス」

名古屋駅から徒歩8分、リニア中央新幹線の開業を見据え、大規模な都市開発などが進む駅周辺エリアと、名古屋市内で最も古い商店街の1つである円頓寺商店街など、下町風情が味わえるエリアの中間に位置する「なごのキャンパス」。

この施設は、近年の少子化に伴う児童数の減少などにより2015年に廃校となった「那古野小学校」をリノベーションしたもの。名古屋市が策定した施設活用方針に基づき事業者の公募が行われ、東和不動産を代表とする6社のコンソーシアムが選定、新たな産業・スタートアップを育成するインキュベーション施設として、201910月にオープンしました。

「小学校」という特性を生かしながら、さまざまな人が働く中で交わり、新たな価値を生み出す当施設について、交流を促進する仕掛けや施設の魅力を掘り下げ、新たな働き方・働く場の在り方のヒントを探るべく、施設運営を行う東和不動産株式会社の飯澤千紘氏、北原陽子氏(※オンライン取材)、岩村浩一氏に取材を行いました。

東和不動産株式会社オフィス営業部、なごのキャンパス運営事務局 飯澤千紘氏、東和不動産株式会社総務部 岩村浩一氏

 

小学校をリノベーション、
〝インキュベーション施設〞へ

東和不動産にとってリノベーション事業は初の試み。当事業に応募した動機は、「これまで自社で手がけてきた駅前の大型ビルの整備などとはひと味違う、新しく面白みのある事業に魅力を感じたこと、また、インキュベーション施設の運営を通して、東和不動産の母体であるトヨタグループにとっての新たなビジネスマッチングの機会も提供でき、グループ全体に貢献できると考えた」と飯澤氏は言う。

当時の風景がそのまま残ったグラウンド

 

コンセプトは「ひらく、まぜる、うまれる 次の100年を育てる学校」。施設運営にあたっては、東和不動産を主体とした複数の企業などによる「なごのキャンパス運営委員会」を設置。コミュニティ形成が得意な企業や、施設ブランディング、産学連携などに長けた企業、また補助金などの起業家支援ができる名古屋商工会議所など、さまざまな得意分野を持つメンバーを集め、運営を行っています。 

リノベーションにあたり、まず、名古屋駅方面からの来訪者に向けて、大通り沿いにエントランスを新設。以前は閉鎖的であった面が、運動場へと目線が抜ける開放的な出入口へと変化しました。

大通りに開かれたメインエントランス

施設の機能は、職員室・校長室をコワーキングスペースに、一般教室をプライベートオフィス、図工室や多目的室をシェアオフィスに、体育館や音楽室をイベントスペース、給食室を一般利用も可能なカフェに用途転換。そのなかで、教室の床や黒板、ロッカー、廊下の手洗い場などを当時のままとするなど、小学校らしさを随所に残しています。

交流を生み出す仕掛け

この施設では、日常から非日常まで利用者の交流を促すさまざまな仕掛けが施されています。コワーキングスペースのデザインは、リノベーションを得意とする株式会社Open Aが手がけ、小学校にあった道具を意外な用途に活用した空間づくりを実現。たとえば、跳び箱を椅子やテーブルとして、ライン引きを植栽ポットとして、スネアドラムを照明として活用するなど、遊び心に溢れた工夫があります。そういった要素を空間に散りばめることで、会話のタネにもなり、どこか懐かしい雰囲気を醸し出しています。

職員室を改装したコワーキングスペース

また、コワーキングスペースの中には、利用者が自由に使えるキッチンを整備。コーヒーブレイクの際にたまたま一緒になった人と雑談を始めることもできるし、キッチンスペースの壁面には、入居者の自己紹介カードやイベント情報などの掲示があり、交流のきっかけを探せる場にもなっています。

交流の生まれるキッチンスペース

入居者おすすめのお店を自由に共有できる掲示板

ソフト面では、会員同士のマッチングを促すイベント(ランチイベント、夜のピッチイベント)を開催したり、コワーキングスペースの受付にコミュニティマネージャーを常駐させ、利用者と日頃からコミュニケーションをとったりすることで、何気ない会話からマッチングにつなげられるような下地をつくっています。また、会員はオンラインのチャットツールで常につながっていて、イベント情報を確認したり、会員同士で気軽にコンタクトを取ったりすることもできます。

運営側の工夫だけでなく、利用者側が自発的に交流の場をつくり出す環境でもあります。入居企業がイベントを主催したり、入居者の発案で、企業間を超えた部活動(バドミントン、バスケ、プログラミングなど)が発足したりすることもあります。体育館やコワーキングスペース、会議室など、イベントの規模や特性に応じて、利用できる空間の選択肢が幅広いことも魅力の1つです。

飯澤氏によると、「イベントでの交流だけでなく、日常の中で休憩時間に運動場に出て仲間とスポーツを楽しんでいる人がいたり、シェアオフィスでの日々の交流の中で、新たなコラボレーションが生まれたりもする」と言います。

スネアドラムの照明

ライン引きの植栽ポット

跳び箱のテーブルと椅子

スコアボードの照明

また、小学校という公共性を引き継ぎ、地域の人々の活動を促進する場でもあります。ランチイベントは、商店街の飲食店舗とコラボして行われ、地域の魅力を発信できる機会になっています。また、地域のまちづくり協議会の活動場所として施設を利用してもらったり、名古屋市と連携した起業家育成イベントも定期的に開催したりしています。そのほか、起業を志す学生に向けては、コワーキングスペースの利用を無料にしたり、ベンチャー企業によるインターンイベントなども行われたりしています。

ビジネスチャンスを求めて集う利用者会員は、個人の起業家やスタートアップ企業、大企業の支社など、業種を問わずさまざまで、その数は約150社にのぼります(2021年12月現在)。プライベートオフィスの人気は高く、当初の計画より大幅に希望者が上回ったため、開業後に大部屋を分割するなどして部屋数を増やしたとのこと。オフィスへの入居に限らず、施設との関わりを目的とした法人プログラム会員もあります。また、個人でコワーキングスペースを利用し始めた人が、のちにビジネスパートナーを見つけ、個室契約に切り替えるなど柔軟な利用もなされています。

会員になる動機として最も挙げられるのは、さまざまな企業と横のつながりができ新たなビジネスチャンスがあること。また、体育館など一般的なオフィスにはないような空間があることを魅力に感じる人も多いといいます。ちなみに非会員でも、コワーキングスペースのドロップイン利用や会議室の利用が可能です。

コワーキングスペースの一角にある、校長室を改装した集中スペース

懐かしさや親しみやすさがもたらす
賑やかな雰囲気

施設の雰囲気については、「コワーキングスペースを中心として、全体として賑やかな雰囲気」と北原氏。「なごのキャンパスは〝小学校〞という皆が共感できるような原体験の要素があるからか、懐かしさや親しみやすさがあり、意図せず賑やかな雰囲気になっていると思う」と続けます。また、「日々の何気ない会話や、入居者の趣味の延長でつくられた部活動を通じて、新たな交流の輪が広がるなど、コミュニティがいろいろな場面で自然に生まれ、深まっている」といいます。

この施設を気に入った入居者が新たな入居者を連れてくることも多いとのこと。「コワーキング施設の中には、入居者の呼び込みに苦戦している施設もあると聞くが、ここでは順調にいっている」と北原氏。コロナ禍を受けて、新しい取り組みに対する感度の高い企業が増えた印象とのことで、会員数は右肩上がり。〝小学校〞という懐かしさもあって、絶えず人を惹きつけているようです。

 

まちづくりの情報発信「CITY in CITY vol.33より抜粋)

テキスト:公益社団法人全国市街地再開発協会

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