住宅

「冬もカビが生える浴室」低気密低断熱住宅ルポ⑦

こんにちは。一級建築士の神長宏明です。私は、エアコンを24時間つけっぱなしでも月々の光熱費が1万円以下で済む高気密高断熱住宅を設計していますが、住んでいるのは【低気密低断熱住宅】です。この連載では、低気密低断熱住宅の住み心地を数回に分けてレポートしていきます。7回目は、年中続く湿気とカビの猛威についてです。

神長家の概要
■家賃:約9万円/月(3,250万円のローンを組んだときと月の返済額は大体同じ)
■立地:宇都宮駅から車で15分
■築年数:築29年(1991年8月竣工)
■延べ床面積:125.44㎡(37.94坪)
■断熱性能:築年数と天井断熱材の状況から昭和55年基準と推定(昭和55年区域区分Ⅲ・栃木県・Q値4.7)。無断熱ではなく、断熱材は気持ち程度入っている状態

間取りは、一般的な玄関ホールを挟んで、LDKと和室に分かれている。2階の15帖の洋室は神長さんの仕事部屋として使っている

浴室が1年中濡れている!

2020年の年末、気づいたことがあります。
浴室が冬にもかかわらず濡れているのです!

そして、濡れているということは……。そうです!カビが発生します!!
(当然ですが、夏は湿気が多くてカビが発生しました。)
今回は、冬の浴室のカビと湿気の原因をじっくり探っていきます。

■こびりついて取れないカビ
下記は引っ越し当時の浴室の写真です。2020年7月の引っ越し前にハウスクリーニングをしてもらいましたが、キッチンや風呂場の窓まわりのゴム系のもの(防水・止水のためのシーリング)はカビで真っ黒のままでした。こすっても落ちません(涙)。相当前からカビが繁殖していたのでしょう。

お風呂の窓廻り。カビがこびりついている。入居前クリーニングをしたにも関わらず落ちていない


■浴室で増え続けるカビ
2020年12月28日夜のお風呂上がりの写真です。窓枠の上部や壁のタイル、窓ガラスなど、特に窓まわりが結露によって大粒の水滴ができています。湯船に入っていると、窓の下枠に落ちた水滴が顔に跳ね返ってきます(冷たい!)。

換気扇を1日中回しても乾かないため、カビがさらに増えました(涙)。

2021年2月の夜。大粒の水滴が窓回りについている


冬場のお風呂の窓まわり。前日の21時~22時の入浴後、換気扇をかけても大粒の水滴が残っている。窓枠のカビが増えた


窓枠の上にもカビ。特に窓枠周辺はカビが大量に発生した


換気扇近くの天井も水滴の影響でカビが発生


壁のタイルの目地にもカビが発生


床のタイルの目地にもカビが発生


入浴後12時間連続で浴室の換気扇をかけているのですが、写真でわかるように「水分」が残ってしまっています。乾かないのです。

季節に関係なくずっと湿っているので、浴室にはカビが1年中繁殖しています。

カビ発生に湿度は関係ない!?

ここで、「寒くて乾燥しがちな冬に、なぜカビが生えるの?」と疑問をもった方に、カビ発生のメカニズムをお伝えします。

「衛生微生物研究センター」によると、カビは温度が5~35℃前後であれば、湿度に関係なく、付着した表面の栄養と水分を利用して発育します。

早速、わが家の浴室の「表面の温度」と「表面の水分」が、どのような状態になっているのか調べてみましょう。

■カビ発生要因の「表面の温度」をチェック!

まず、冬の2月2日16時の浴室の温度と湿度は、浴室の温度は13℃、湿度は76.8%(空気中の水分量7.29g)です。
カビ発生の温度は5~35℃なので、13℃の浴室は範囲内の状態ですね。

浴室の温度13℃、湿度76.8%(空気中の水分量7.29g)


浴室の窓際は、温度13.2℃、湿度80.7%(空気中の水分量7.78g)


室温だけでなく、サーモカメラで具体的に「表面の温度」を調べていきましょう。



サーモカメラで撮った画像を見ると、下記のような温度になっています。

1番:8.8℃(床面)
2番:11.2℃(私の足跡)
3番:9.7℃(浴槽側面)
4番:8.6℃(浴槽底面)
5番:9.6℃(浴槽側面 外壁側)
6番:9.6℃(外壁側タイル)

室温13℃に比べて温度は低いですが、「表面の温度」がすべてカビが発生する条件である5~35℃内でした。

■カビ発生要因の「表面の水分」をチェック!

次に、カビの発育の条件の1つである「表面の水分」も調べてみます。

結果、床と壁のタイル目地以外の場所は、含水率50%以上。
カビが一番多く発生している窓枠は、含水率100%でした!

窓まわりの含水率が高い理由は、窓が断熱性能の低い「アルミサッシ」なので外気によって冷やされ、そこに入浴時の暖かい空気が触れるので、結露が起こるからです。氷を入れたコップの表面に沢山の水滴が現れるのと同じ現象です。

窓枠の上部。含水率100%


換気扇近くの天井のカビが酷い部分。含水率98%


窓上の壁のタイル。含水率61%


床タイル目地。含水率50%


床タイル。含水率41%


壁のタイル目地。含水率34%


人間の手。含水率100%。当然の結果(笑)


おわかりいただけたでしょうか?
冬の浴室にカビが発生する要因は十分にそろっているのです。

これらは2月2日に調べた結果です。
昨晩の入浴後からつけっぱなしの換気扇は15時間以上まわっています。
しかし、床面は濡れたままなのです。

では、なぜ換気扇を付けても乾かないのでしょうか?

床に手を付けると濡れる


要因は、家の気密・断熱性能にあった

ここからは、換気扇を回しているのに浴室が乾かない原因を探っていきます。

まず、先ほどサーモカメラで見たように、浴室の室温は13℃、表面温度は10℃以下でした。

このような寒い環境で換気扇をつけている状態というのは、濡れた髪にドライヤーの冷風を当てている状態と似ています。当然、髪の毛は乾きませんよね。

「換気」というのは空気中の水分・湿気を排出する効果はあるけれど、「冷えた床面の水分」を蒸発させることはできません。サーモカメラで見たように、浴室の表面温度が低いため、換気扇をつけても乾かないのはそのためです。

これだけ床面が冷えてしまうのは、低気密低断熱住宅だからなのです。

■カビの生えない浴室にするには?

低気密低断熱住宅のわが家で浴室のカビを防ぐには、水滴をふき取ることが効果的な方法ですが、そんなことめんどくさくて毎回できません。

改善するには、「空気を乾燥」させ、床面などの表面温度が低くなりすぎないようにする必要があります。なので、電気ヒーターなどで浴室を暖め、浴室乾燥機を設置すると多少は改善できると思います。

■高気密高断熱はカビの心配いらず

高気密高断熱住宅では、冬でも表面温度が低くならないため、お風呂の換気扇を使わなくてもドアを開けておけば、次の日の朝には床・壁・天井、すべて乾きます。もちろん、カビの心配もありません。

私が設計した家の建て主からは、「排水溝もまったくヌメらない♪」と聞きました。
つまり高気密高断熱住宅は、浴室掃除がとても楽というメリットもあるわけですね。

ちなみに、私は浴室を設計するときは、基本的にお風呂に窓は設けません。理由は、窓は換気口としてあまり意味がないためです。また、基本的に入浴するのは夜なので、窓からの採光が必要ないと思うからです。その分、浴室の気密・断熱性能を上げることができます。

 

次回は、「異臭」についてお話します。

気密・断熱性能が低いことによって家の中で起こる不快な現象は結露とカビ以外にもあるのです!

テキスト:神長宏明(ラファエル設計)

次回予告
・クロゼットで異臭発生
・原因は「ルーバー窓」

連載⑧はコチラ

前回の記事:連載⑥「せんべいが湿気る家」

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