はじめに
人が家のなかで快適で安全に過ごすために、換気は重要な要素です。最近ではリモートワークの普及が進み、自宅で過ごす時間が確実に増えました。適切な換気はウイルス感染症対策にも有効であるといわれています。
では、換気は具体的にどのように行えばよいのでしょうか? 本稿では、「換気の目的とメカニズム」「換気の方法(自然換気と機械換気)」「夏の換気・冬の換気」について、設備設計者として数多くの建物にかかわり、『世界で一番やさしい建築設備』・『エアコンのいらない家』・『建築設備パーフェクトマニュアル』・『ストーリーで面白いほど頭に入る建築設備』(いずれもエクスナレッジ刊)の著者としてもおなじみで、ジャパンホームショー2020において「いまさら聞けない!“正しい換気”の方法」(11月12日)というテーマで講演を行う 山田浩幸氏(yamada machinery office[ymo])に、それぞれのポイントを解説していただきました。
2 自然換気と窓の配置
改めて、自然換気とは、一言でいえば〝圧力差〞で生じる換気です。部屋の内外に正圧(物体の表面で圧縮される方向に働く圧力)と負圧(物体の表面で吸引される方向に働く圧力)の状態を意図的につくり出すと、圧力差によって空気の流れが生まれます。これが空気の入れ替えを可能にするのです。
部屋の中を負圧にすれば、部屋の外は正圧になります。その状態で、空気の出入口をきちんと確保してやれば、外部の空気は自然と室内(負圧側)に吸い込まれていきます。〝空気の道をデザインする〞とも表現できるでしょう。通風を促す場合には、窓の数と配置が重要になります。理想は、部屋の対角線上に2つ以上の窓を設けることです。これにより部屋全体を風が通り抜け、十分な換気が可能になります。
一方、「窓が対角線上に配置されていない」「窓が1つしかない」など、空気の道がデザインされていない部屋では、抜け道のない部屋の空気は滞留しがちで十分な換気が行えません。その場合は、窓の近くに扇風機やサーキュレーターを配置して人為的に空気を外へ排出します。すると、部屋の中が負圧になりますので新鮮な空気が自然に呼び込まれます。
部屋の近くにキッチンがある場合は、キッチンの換気扇を回して排気を強制的に行う方法もあります。キッチンの換気扇は換気量が多い機種が使用されていますので、窓からより多くの新鮮な空気を呼び込むことが可能です。
以上が窓を利用する平面的な自然換気です。ちなみに、私がプロデュースしている「エアコンのいらない家」などでは、ここにさらに高窓や天窓を組み合わせ、重力換気による立体的な換気を計画しています。
重力換気とは、比重の軽い暖気は上昇し、比重の重い冷気は下降するという原理を応用した自然換気の一種です。建物の上部に設けた高窓や天窓を開くと、高低差と温度差によって上昇気流が発生し、家中の空気が瞬く間に外部に排出されていきます。特に建物上部に熱が溜まりやすい夏は、重力換気による効果的な換気(排熱)が期待できます。
重力換気を利用するうえで、「エアコンのいらない家」が標準仕様としている窓は高窓です。南側の大開口に正対するように北側の高い位置に高窓を設けます。場合によっては換気専用の越屋根を設けることもあります。延床面積100㎡程度の2階建てであれば、経験上、幅W45㎝×高さ30㎝程度の窓(電動で開閉可能)を3つ以上設けるのが効果的です。
天窓ではなく高窓を標準仕様としているのは、熱の侵入を避けるためです。天窓は屋根面からの熱(直接日射)の侵入が懸念されます(夏)。仮に天窓を使用するのであれば、ガラスはなるべく断熱性能が高いものを採用して、設置場所は直射日光を避けられる北面にするなど、いくつか工夫が必要になります。