建築 建材 インタビュー

西方里見と山田憲明の住宅用資材でつくる大規模木造①

“断熱・気密”の西方里見氏と“木構造”の山田憲明氏が設計を手がけた大規模木造「道の駅ふたつい」(秋田県能代市)。木造住宅で使われる汎用的な資材で計画された複合施設です。今回は、計画の概要と工事中・完成後の様子をレポート。地域産材を使った大規模木造の設計手法を徹底解説します。

防火壁によるコストダウン

「道の駅ふたつい」は、蛇行する米代川と七座山に向き合う風光明媚な土地に計画された建物。物販スペースやレストランなどに加え、歴史・民俗資料コーナー、室内遊具コーナーなども備えており、来訪者が長時間滞在できる施設となっています。

 

「道の駅ふたつい」の建物全景。設計は地元の設計事務所で組織された設計チーム木協同組合が手がけた。建物の断熱性能は、外皮平均熱貫流率(UA値)が0.46W/㎡・Kであり、快適な温熱環境を実現している。背後には米代川と七座山が見える

 

建物に効率よく出入りできるよう、建物は川の流れに沿って緩やかに湾曲した長方形となっており、エントランス、多目的ホール、歴史・民俗資料コーナーが納まる建物中央部には、ランドマークとなるようなアーチ状の大屋根が架かっています。

 

秋田杉の製材を組み合わせたアーチ梁がそのまま現しとなった中央のエントランス、多目的ホール、歴史・民俗資料コーナーの部分。地元の大工が加工できるようにディテールが検討されている

 

設計上の大きな特徴は、「地元の秋田杉を使用した木造建築であること」「構造材や断熱材、窓・サッシなどの資材の大部分が住宅用であること」の2点。建物の延べ面積は2,874.70㎡、一般的な住宅に換算して約30棟分の資材が使用されています。

 

 

ただし、住宅用資材による木造建築を実現するには、建築基準法の防火規制というハードルを越えなければなりません。建物の軒高は6.817m、最高高さは12.5mであり、大規模建築物における構造制限の適用は受けませんが[※1]、延べ面積は1,000㎡を超えているため、一般的には耐火建築物もしくは準耐火建築物で建物を計画する必要がある。この場合は、躯体や開口部などが防火規制の対象となるため、資材が一気にコストアップします。

 

※1 防火地域・準防火地域以外に計画される建築物は、最高高さ13m超または軒高9m超の条件に該当する場合、従来は耐火建築物等にすることが求められていたが、改正により軒高の制限が解除され、最高高さ16m以下であれば防耐火要求のかからない〝その他の建築物〟として設計できるようになった[法21条]

 

一方、1千㎡ごとに防火壁(耐火構造)で区画すれば、耐火要求の制限を解除できるので、防火壁で区画された範囲内は、住宅用資材を用いた自由な設計が可能となる[※2]。「道の駅ふたつい」では、建物内の2カ所に幅約3.6mの防火壁を設けて3分割し、その範囲内は在来軸組構法をベースとした木造建築として、大幅なコストダウンを実現しています。

 

建方工事中の様子。基礎工事を行った後、ゾーンごとに屋根下地工事までを一気に行う。建物の重量は比較的軽量で、基礎は一般的なベタ基礎とほぼ同様。地盤改良のための杭も長さは9m程度に抑えられている。写真下は地組みされたアーチ梁

 

※2 その他の建築物(耐火建築物・準耐火建築物以外)では、1,000㎡以内ごとに、防火壁(自立する耐火構造の壁)および特定防火設備(幅2.5m以下、高さ2.5m以下)で防火区画を行う必要がある[法26条・国交告197号第21

 

「木造を準耐火建築物や耐火建築物で計画する場合は、安価な無垢材や住宅用サッシが使えなくなります。防火壁自体はコストアップの要因ですが、範囲は限定的なので、建物全体としては住宅用資材が使えるメリットのほうが大きくなります」(西方里見氏)。総工費は約10.8億円、坪単価は約120万円になります。

 

アーチ梁建込み後の様子。3本の梁を一体化したアーチ梁のユニットが4.55mピッチで並ぶ。湾曲材を一切使うことなく、短い通直材のみ(約3m以下)でアーチのかたちを表現した架構は、合理的かつ壮観

 

木造防火壁は、日本木造住宅産業協会が取得した国土交通大臣認定の仕様に基づく、21㎜厚の強化石膏ボードを、外壁、内壁、屋根に2重張りしたもの(認定番号:FP060BE-0100など)を採用しています。

ただし、防火壁で建物を完全に区画すると、人のスムーズな移動を妨げるほか、長手方向への視線の抜けが確保できなくなります。防火壁の一部は大きな開口となっており、1時間耐火構造の独立柱で架構を形成しています。

木造の耐火構造は3種類(被覆型・燃え止まり型・鉄骨内蔵型)ありますが、表面のJAS集成材(秋田杉)を現しとするため、不燃木材を内蔵する燃え止まり型の柱を立てました[※3]。秋田県立大学を中心とする耐火木造ラーメン構造研究会が開発した310×330㎜の柱です。

 

耐火

1時間耐火構造の間仕切壁(左)と外壁(右)。21㎜厚の石膏ボードを2重張りとして躯体を被覆しつつ、火が屋根裏に回り込まないように、野地板直下まで石膏ボードを張り込んでいます。外壁仕上げは下地で耐火性能を確保できるので、秋田杉の羽目板張りが可能になります。

1時間耐火構造の柱。集成材の柱を、燃え止まり層となる難燃剤を注入した不燃木材(写真の縦方向はLVL、横方向は合板)で被覆しつつ、その外側を燃え代層となる秋田杉の集成材で仕上げている。開発は秋田県立大学を中心とする耐火木質ラーメン構造研究会で、2017年5月に国土交通大臣認定を取得。製造は秋田グルーラム(現ティンバラム)(秋田県大館市)

防火壁の一角に建てこまれた耐火柱。表面は秋田杉であり、木の風合いが感じられる。耐火柱の燃え止まり層と天井の両強化石膏ボードが接するように加工。天井内で梁を接合される柱天端は、中心部材を剥き出している

 

※3 木造耐火構造は主に3種類に分別される。耐火被覆材(石膏ボード)で木材をカバーする“被覆型”、内側から木材、不燃木材(燃え止まり層)、木材(燃え代層)で構成される“燃え止まり型”、木材の中に鉄骨を内蔵させる“鉄骨内蔵型”である

 

西方里見[にしかた・さとみ]

1951年秋田県能代市生まれ。’75年室蘭工業大学建築工学科卒。’81年西方設計工房を開所し、’93 年西方設計に改組。2004 年設計チーム木(協)代表理事に就任。木造高気密・高断熱建築の先駆者として知られ、『住宅が危ない! ③「外断熱」が危ない! 』『最高の断熱・エコ住宅をつくる方法 令和の大改訂版』『西方里見が選んだこの建材・設備がスゴい』(いずれもエクスナレッジ刊)など著書多数。「道の駅ふたつい」は木の建築大賞(’22 年)、「東北住建 新社屋」[写真]はウッドデザイン賞(’22 年)など受賞歴も多数

 

山田憲明[やまだ・のりあき]

1973年東京都生まれ。‘97年京都大学工学部建築学科卒業後、同年に増田建築構造事務所入社。2000年~’12年同社チーフエンジニアを務める。同年山田憲明構造設計事務所設立。‘13年~早稲田大学非常勤講師。第22回JSCA賞作品賞「国際教養大学中島記念図書館棟」、第14回木の建築賞 木の建築大賞「南小国町役場」、第23回木材活用コンクール 最優秀賞(農林水産大臣賞)「大分県立(昭和電工)武道スポーツセンター」、最優秀賞(国土交通大臣賞)「住友林業筑波研究所新研究棟」、2021年日本建築学会賞(作品)「上勝ゼロ・ウェイストセンター」などの木造建築において受賞歴多数。主著に『ヤマダの木構造 改訂版』(エクスナレッジ刊)がある

 

講演動画(山田憲明)—【建築知識】大径のJAS製材でつくる木造建築ー

 

②につづく

 

 

こちらの記事もおすすめ

ブルースタジオ・大島芳彦、 増田奏設計の自邸を “ 二世帯化リノベ”する。①

住宅 建築 建材2024/05/07

ブルースタジオ・大島芳彦氏の自邸「大島邸」は、1991年に『住まいの解剖図鑑』の著者・増田奏氏が設計を手がけた住宅。2020年に原設計を生かしながら、高断熱・高気密の二世帯住宅としてリノベーションされました。本記事では大島氏が建築当時からの思い出と、リノベーションのポイントを語ります。

小さな家は外を活用!縁側・デッキのアイデア6選

住宅2022/04/12

家の面積が限られていても、狭さを感じずのびのびと暮らすためには、外とのつながりが感じられる設計が必要不可欠。この記事では、建築知識ビルダーズ主催Instagram企画「#bコレ小さな家の豊かな暮らし」の中から、小さな家でもつくれる縁側やデッキのアイデアを6つご紹介します。

知ってた?土間つきリビングの魅力

建築2020/06/19

昔は、日本家屋に普通にあった土間ですが、最近では「土間付きリビング」としての役割が注目されています。アウトドア用品や園芸用品を置いたり、子どもの遊び場にしたり、薪ストーブを置いたり・・・その使い方は家族によってさまざまです。今回は、田嵜建築設計事務所の田嵜さんの自宅の土間付きリビングを紹介します!

【動画】高断熱・高気密住宅の施工の肝を押さえる!

動画2021/08/10

高断熱・高気密住宅をつくるためには、緻密な設計と精度の高い施工が欠かせません。建築知識ビルダーズのinstagram公式アカウントでは、施工のコツが分かる「現場動画」を随時アップしています。今回はそのなかから最新動画を6つご紹介します。

不動産的思考から学ぶリノベ最前線②

住宅 建築2020/09/18

空き家や遊休不動産。問題と言ってしまえばそれで終わりですが、うまく活用するチャンスは眠っています。今回は、不動産コンサルタントを務める創造系不動産の高橋寿太郎氏に、築55年のビルの再生プロジェクトの過程を教えてもらいました。

Pick up注目の記事

Top