連載

「快適な湿度を探る」低気密低断熱住宅ルポ⑲

こんにちは。一級建築士の神長宏明です。私は、エアコンを24時間つけっぱなしでも月々の光熱費が1万円以下で済む高気密高断熱住宅を設計していますが、住んでいるのは【低気密低断熱住宅】です。この連載では、低気密低断熱住宅の住み心地を数回に分けてレポートしていきます。18回目に続き19回目は、夏の相対湿度と絶対湿度についてお話します。

神長家の概要
■家賃:約9万円/月(3,250万円のローンを組んだときと月の返済額は大体同じ)
■立地:宇都宮駅から車で15分
■築年数:築30年(1991年8月竣工)
■延べ床面積:125.44㎡(37.94坪)
■断熱性能:築年数と天井断熱材の状況から昭和55年基準と推定(昭和55年区域区分Ⅲ・栃木県・Q値4.7)。無断熱ではなく、断熱材は気持ち程度入っている状態

間取りは、一般的な玄関ホールを挟んで、LDKと和室に分かれている。2階の15帖の洋室は神長さんの仕事部屋として使っている

 

夏場の室温27℃は快適?

連載18回目では、室温27℃でも湿度によって快適さに違うがあることに触れました。今回は、なぜ湿度で快適さが変わるのか。何℃で絶対湿度何/㎏であれば快適と感じるのかについて解説します。

早速ですが、ここで質問です。8月の蒸し暑い日、室温27℃で湿度45%の状態は、「ちょうどよい」「暑い」「涼しい」「寒い」どのように感じるでしょうか?

正解は「寒い」or「涼しい」です。特に女性や、男性でもやせ型の人は室温27℃湿度45%の部屋に入ると「寒い!」と感じます。なぜなのか、湿度に焦点を当ててみましょう。

「絶対湿度」で快適さを測る

まずは、湿度はどんなものかについて説明します。湿度には2種類の表し方があります。1つ目は「%」で表示される「相対湿度」です。2つ目は「g/㎏」で表示される「絶対湿度」です。「相対湿度」は、含まれている水分量の割合を示します。それに対して「絶対湿度」は、含まれている水分量(水蒸気の重さ)を示します。

空気は温度によって含める水分量が決まっています。ビニール袋でたとえると、温度が高いほど大きな袋のイメージです。下記は27℃の空気に含まれる水蒸気量を表現した図です。

27℃の空気は22.7g/㎏の水蒸気を含むことができます。

出典:ラファエル設計作成

温度27℃に対して相対湿度100%というのは絶対湿度「22.7g/㎏」の水分量になります。相対湿度50%というのは絶対湿度「11.1g/㎏」の水分量です。

「湿度を感じる度合いは人によって違う」とさまざまな人が言いますが、それは相対湿度を対象にして言っているのだと思います。絶対湿度は、湿り空気に含まれる水分量ですから、水分量が多いほど誰でも湿度を感じる(じめじめした嫌な感じ)ので、私は絶対湿度を注視しています。

水分量を多く含める高温な空間が快適?

相対湿度と絶対湿度の違いが分かったところで、勘のよい人は「高温にすれば湿度をたくさん含めるから快適になるのでは?」と思ったかもしれませんが、少し違います。

動物園へ行ったときに、熱帯雨林ゾーンを体験したことがありますか? なんともいえないジメジメ感を味わったのではないでしょうか。

あのジメジメとした感覚は高温多湿だからです。高温多湿というのは、空気が高温な空気がたくさんの水分を含んだ状態です。この水分タプタプな空気が肌に触れると、まとわりついて不快と感じます。汗をかくと空気が汗を吸い取ってくれないため、汗が止まらず不快です。これがいわゆる「蒸し暑い」という状態です。

水分量を多く含めない低温な空間が快適?

逆に、「低温高湿」だとどう感じるのでしょうか?

外気温7℃、相対湿度53.5%の現場です(2022219930分)。7℃という湿り空気は、水分量を最大7.8g/㎏しか含めないので、相対湿度は高めになります。しかし、絶対湿度を見ると絶対湿度は3.28g/㎏です。なので、ベタベタ感じず気温が低いので寒いのです。

外気温10℃、相対湿度75.5%(2020年11月27日19時16分)の場合も見てみましょう。相対湿度は75.5%もあるのでジメジメしてそうですが、絶対湿度は5.82g/㎏しかないので、こちらも湿度を感じることはなく、単純に温度が低いので寒いです。

 

絶対温度によって快適に違いが出る

最初の質問「8月の蒸し暑い日、室温27℃で湿度45%の状態は寒いor涼しい」を振り返ってみましょう。人によっては寒く感じる理由は、絶対湿度が10g/㎏と低いから暑くてじめじめしているとならないのです。

上記の理由から、夏はある程度の湿気を含む温度の空気で、なおかつ水分を含みすぎていない状態にするのが快適さの近道といえます。下記は、持論ですがさまざまな高断熱高気密住宅を設計・施工してきたなかで、私が快適だと思える状態を示してみました。大きく外れていないと思っています。

28℃前後の時の絶対湿度と体感のイメージ

絶対湿度

体感のイメージ

不快度

10~11g/㎏

ジメジメと感じる人はほとんどいない

×

12~13g/㎏

赤ちゃんを抱いている人や
軽度の作業をしている人は若干の蒸し暑さを感じる

××

15g/㎏前後

風がないと蒸し暑く感じる

×××

17~18g/㎏

風があっても蒸し暑く感じる(汗が引きにくい)

××××

19g/㎏以上

肌にまとわりつくような蒸し暑さ(汗が止まらない)

×××××

連載18回目で紹介した低気密低断熱住宅のわが家の仕事部屋が、エアコン設定温度25℃で、室温27.2℃、湿度65.1%、絶対湿度15.02g/㎏だったので、上記の表で見ると蒸し暑く感じる状態です。

一方、高気密高断熱住宅はエアコンの設定温度は27℃で、室温26.9℃、相対湿度50.7%、絶対湿度11.45g/㎏なので、ジメジメした感じは全くないといえるでしょう。

ちなみに、わが家の場合は室温が約23℃になっても湿度が高い(低温になるほど含める水分量が少なくなる)ので、快適にはなりません。そうなると23℃で絶対湿度12.3g/㎏程度=相対湿度70%なので、水分タプタプの空気になるので、肌に触れるとベタベタで、さらに室温も低いので寒く、超不快に感じると思います。

次回は、湿度のコントロールの方法について解説します。

 

次回予告
・相対湿度と絶対湿度の違い
・高温低湿が快適な理由
・高温低湿な住まいのつくり方

前回の記事:「蒸し暑さの犯人は湿度」低気密低断熱住宅ルポ⑱

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