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歴史と文化を生かすリノベ術③

〝大正浪漫〞の趣を残す温泉街にある木造建築「銀山温泉 本館古勢起屋」が、建築家・瀬野和広氏の改修設計により、当時の趣をそのまま生かした形で現代によみがえりました。内外装ともに、大正時代に一世を風靡した木造の洋館建築の設え。歴史と文化を繋ぐ、その設計術を紐解いていきます。

After 和洋折衷に感じる“大正浪漫”の精神

倒壊寸前の銀山温泉「本館古勢起屋」は、和と洋の素材が入り乱れて空間を構成する“大正浪漫”の建築として見事に生まれ変わりました。地元産の素材や最新の技術がうまく調和しているのも大きな特徴となっています。

 

色の対比で大正浪漫の雰囲気を表現

客室(洋室タイプ)の壁は、調湿・消臭・抗菌・防カビ作用を考慮して、調合漆喰の左官仕上げとしている。天井は西山杉の小幅板を用いた造作と竿縁天 井。壁際には間接照明(コーニス照明)を仕込み、柔らかな光でライトアッ プ。床は西山杉(30㎜厚)の無垢フローリングを乱尺張り。天井以外の木部を濃色にすることで、“大正浪漫”の雰囲気を醸し出している

 

既存和室(2室)は文化財登録の足がかり

客室は洋室を基本としつつも、 外部における既存状態の復元にならって可能な限り、和室を設けている。畳と既存の木製建具を利用したインテリア。本建物は現在、登録有形文化財申請中

 

赤いじゅうたんと天然石の対比が映える土間ロビー

広々とした玄関ロビーは、和風の表情を醸し出す天然のさび石と赤いじゅうたんのコントラストが映える。じゅうたんは1935年創業のオリエンタルカーペット(山形県東村山郡山辺町)でオリジナルに製作したもの。上質な羊毛を採用して、糸づくりから染色、織り、仕上げに至るまで唯一無二の技術(緞通)を駆使して製作されている。おもてなしの雰囲気を高めてくれる

 

張り出しの空間は装飾性を高めたレトロなホワイエ

出壁の空間はホワイエとして活用。既存の木製建具を再利用したほか、天井にはモールディングをあしらった。階段の手摺に装飾性をもたせ、床を赤いじゅうたん敷き(緞通)とし、大正から昭和にかけての文化人が愛した和洋折衷の設えとした

 

 

西山杉で蘇る外壁と軒天井

外壁面は建築時(増築時)の雰囲気を忠実に再現。腐食が激しかった部分(出窓・軒天井・下見板張りの外壁)はすべて西山杉を用いて修復。既存建物のデザインを尊重する瀬野氏の姿勢と、大工の確かな技術力が感じられる

 

MEMO

西山杉とは、山形県西村山郡大江町・西川町・朝日町の山で産出されるスギ。天然乾燥で生産された製材は、一般的な人工乾燥材とは異なり、乾燥時に細胞が破壊されず、精油が抜けないので肌艶よく、強度も高い。今回の改修に当たっては、約135㎥の製材を調達したという

 

白と黒を基調とする2つの浴室

白を基調とする大正風呂(上)は天井や腰壁などの曲面が印象的。空間に柔らかさを添えている。黒を基調とする硯風呂(下)は暗く落ち着いた雰囲気。間接照明の光が月明かりのように感じられる

 

銀山温泉 本館古勢起屋
設計= 瀬野和広+ 設計アトリエ
施工= 市村工務店
写真= 長岡信也

 

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