特殊な金物が不要な組立梁
木造防火壁によって3つのゾーンに区画された「道の駅ふたつい」。架構で目を引くのは、何といってもアーチ状の大屋根に支えられたエントランス、多目的ホール、歴史・民俗資料コーナーの一角。21
・84mスパンの屋根は壮観です。
「アーチ状の屋根を無垢の一般流通材で支えるには、細く短い木材を組み合わせて、強度の高い骨組みをつくる必要があります。当初は、樹状構造などの案も出ましたが、必然的に柱が多くなるので、開放的で物をレイアウトしやすい無柱空間とはなりません。西方さんと話し合ったすえ、最終的にはトラスの原理を利用した大型のアーチ梁としました。4本のアーチ梁で屋根をしっかり支えられるので、積雪荷重1.5mの条件で、20mを超える大スパンを実現しています」(山田憲明氏)。
アーチ梁は上弦材と下弦材、束材、斜材という4つの部材で構成されています。鉛直荷重の負担面積を広くするため、材の取合いが可能な限り簡素な納まりとなるよう、3列の梁を一体化したユニークな梁材です。
「中・大規模木造でアーチ型の構造を実現するには、湾曲集成材という選択肢もありますが、材料費がかさみます。ここでは、木材の曲げ加工は行わず、短い通直材(約3m以下)を順々につなげていくことで、アーチの形状を実現しました。2列の飼木を介して3列の梁を一体化することで、在来軸組構法ならではの篏合接合が実現しています。特殊な接合金物は使用していません」(山田氏)。
4 ・55mピッチで架けられた4本のアーチ梁は、巨大で重量もかなり大きくなります。「道の駅ふたつい」は、加工場で大勢の大工によって継手・仕口の加工がなされた無垢材を現場で地組みし、クレーンで吊り上げてから建て込むという順序で施工されました。
物販施設やレストランなどでも6mを大きく超えるスパンを実現するため、小断面の無垢材を利用した組立梁で屋根を支える方法を採用しています。スパン約11mの物販施設の屋根を支えるのは、下弦材を船底のかたちにした挟み張弦トラス。上弦材と下弦材、束材で構成される梁で、接合部での断面欠損を最小限にとどめるため、1本の梁の両端を2本の梁で挟んでビス留めする納まりを採用、それを連続させて、大スパンを支える梁材を短い材で構成しています。
レストランの屋根を支える方杖による連続トラスは、登り梁を両側からの方杖で支えるトラス梁。最大で約10mのスパンを実現しています。方杖と登り梁との接合部において、応力を効率よく伝える流れホゾとしたのがポイント。木材は篏合接合とビスによって強固に固定されます。
構造
アーチ屋根の断面図。アーチ梁は上弦材と下弦材、束材、斜材がいずれも現しになっており、基礎立上りに直接接合しています。アーチ梁を構成する木材(秋田杉)の成は最大240㎜、長さは3m以下で、一般流通材として安価に入手できます。天井の仕上げは、空間の中央部に音が集まる性質を考慮して、吸音効果のあるグラスウールをベースとした「GCボード」(パラマウント硝子工業)仕上げ。
アーチトラス
挟み張弦トラス
1本の梁を2本の梁で挟み込んだユニットでつくる挟みトラス。600㎜程度の予長を設けて木材をつなぎ合わせています。これには、接合部の強度を向上させると同時に、見た目にアクセントをつける目的があります。
方杖による連続トラス
レストランの屋根を支える方杖による連続トラス。柱や束の位置に方杖を設けることで、連続したトラス梁を構成し、梁の応力と変形を抑制しています。
西方里見[にしかた・さとみ]
山田憲明[やまだ・のりあき]
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③につづく
講演動画(山田憲明)—【建築知識】大径のJAS製材でつくる木造建築ー