防火壁によるコストダウン
「道の駅ふたつい」は、蛇行する米代川と七座山に向き合う風光明媚な土地に計画された建物。物販スペースやレストランなどに加え、歴史・民俗資料コーナー、室内遊具コーナーなども備えており、来訪者が長時間滞在できる施設となっています。
建物に効率よく出入りできるよう、建物は川の流れに沿って緩やかに湾曲した長方形となっており、エントランス、多目的ホール、歴史・民俗資料コーナーが納まる建物中央部には、ランドマークとなるようなアーチ状の大屋根が架かっています。
設計上の大きな特徴は、「地元の秋田杉を使用した木造建築であること」「構造材や断熱材、窓・サッシなどの資材の大部分が住宅用であること」の2点。建物の延べ面積は2,874.70㎡、一般的な住宅に換算して約30棟分の資材が使用されています。
ただし、住宅用資材による木造建築を実現するには、建築基準法の防火規制というハードルを越えなければなりません。建物の軒高は6.817m、最高高さは12.5mであり、大規模建築物における構造制限の適用は受けませんが[※1]、延べ面積は1,000㎡を超えているため、一般的には耐火建築物もしくは準耐火建築物で建物を計画する必要がある。この場合は、躯体や開口部などが防火規制の対象となるため、資材が一気にコストアップします。
※1 防火地域・準防火地域以外に計画される建築物は、最高高さ13m超または軒高9m超の条件に該当する場合、従来は耐火建築物等にすることが求められていたが、改正により軒高の制限が解除され、最高高さ16m以下であれば防耐火要求のかからない〝その他の建築物〟として設計できるようになった[法21条]
一方、1千㎡ごとに防火壁(耐火構造)で区画すれば、耐火要求の制限を解除できるので、防火壁で区画された範囲内は、住宅用資材を用いた自由な設計が可能となる[※2]。「道の駅ふたつい」では、建物内の2カ所に幅約3.6mの防火壁を設けて3分割し、その範囲内は在来軸組構法をベースとした木造建築として、大幅なコストダウンを実現しています。
※2 その他の建築物(耐火建築物・準耐火建築物以外)では、1,000㎡以内ごとに、防火壁(自立する耐火構造の壁)および特定防火設備(幅2.5m以下、高さ2.5m以下)で防火区画を行う必要がある[法26条・令元国交告197号第2第1号]
「木造を準耐火建築物や耐火建築物で計画する場合は、安価な無垢材や住宅用サッシが使えなくなります。防火壁自体はコストアップの要因ですが、範囲は限定的なので、建物全体としては住宅用資材が使えるメリットのほうが大きくなります」(西方里見氏)。総工費は約10.8億円、坪単価は約120万円になります。
木造防火壁は、日本木造住宅産業協会が取得した国土交通大臣認定の仕様に基づく、21㎜厚の強化石膏ボードを、外壁、内壁、屋根に2重張りしたもの(認定番号:FP060BE-0100など)を採用しています。
ただし、防火壁で建物を完全に区画すると、人のスムーズな移動を妨げるほか、長手方向への視線の抜けが確保できなくなります。防火壁の一部は大きな開口となっており、1時間耐火構造の独立柱で架構を形成しています。
木造の耐火構造は3種類(被覆型・燃え止まり型・鉄骨内蔵型)ありますが、表面のJAS集成材(秋田杉)を現しとするため、不燃木材を内蔵する燃え止まり型の柱を立てました[※3]。秋田県立大学を中心とする耐火木造ラーメン構造研究会が開発した310×330㎜の柱です。
耐火
1時間耐火構造の間仕切壁(左)と外壁(右)。21㎜厚の石膏ボードを2重張りとして躯体を被覆しつつ、火が屋根裏に回り込まないように、野地板直下まで石膏ボードを張り込んでいます。外壁仕上げは下地で耐火性能を確保できるので、秋田杉の羽目板張りが可能になります。
※3 木造耐火構造は主に3種類に分別される。耐火被覆材(石膏ボード)で木材をカバーする“被覆型”、内側から木材、不燃木材(燃え止まり層)、木材(燃え代層)で構成される“燃え止まり型”、木材の中に鉄骨を内蔵させる“鉄骨内蔵型”である
西方里見[にしかた・さとみ]
山田憲明[やまだ・のりあき]
講演動画(山田憲明)—【建築知識】大径のJAS製材でつくる木造建築ー
②につづく