住宅

「良い換気=サーフィン上手」低気密低断熱住宅ルポ⑩

こんにちは。一級建築士の神長宏明です。私は、エアコンを24時間つけっぱなしでも月々の光熱費が1万円以下で済む高気密高断熱住宅を設計していますが、住んでいるのは【低気密低断熱住宅】です。この連載では、低気密低断熱住宅の住み心地を数回に分けてレポートしていきます。10回目は、換気と気密の話です。

神長家の概要
■家賃:約9万円/月(3,250万円のローンを組んだときと月の返済額は大体同じ)
■立地:宇都宮駅から車で15分
■築年数:築29年(1991年8月竣工)
■延べ床面積:125.44㎡(37.94坪)
■断熱性能:築年数と天井断熱材の状況から昭和55年基準と推定(昭和55年区域区分Ⅲ・栃木県・Q値4.7)。無断熱ではなく、断熱材は気持ち程度入っている状態

間取りは、一般的な玄関ホールを挟んで、LDKと和室に分かれている。2階の15帖の洋室は神長さんの仕事部屋として使っている

サーフィン上手な空気をつくろう

連載⑧連載⑨では、換気不足によるにおいの話をしました。今回は、気密の基礎知識と、効率よく換気する方法をお伝えします。

 

気密性能の基本の“き”
まずは、気密はちゃんと換気をするために必要な処置です。

気密性能は下記のイメージです。
低気密=不要な隙間が多い
高気密=不要な隙間が少ない

気密性能はC値(相当隙間面積)という数値で評価されます。数値が小さいほど気密性能が高いことを示しています。

 

日本の住宅における気密性能の変遷
昔の低気密な家(平成11年基準)は、C値5.0㎠/㎡以下(寒冷地は2.0㎠/㎡以下)と定められていました。C値5.0㎠/㎡というのは、床面積148㎡(44坪)の家で計算すると、ハガキ5枚分の孔があることになります! こんなに大きな孔が開いていても、国の基準としてOKだったということに驚きです。

現在はC値の規定はなくなりました(これも驚き!)。なので、最近でもC値2.0㎠/㎡以上(44坪の家ならハガキ2枚分)の低気密な家をつくる会社もたくさんあります。実際に大手ハウスメーカーでC値2.6㎠/㎡だったという話を聞いたこともありますし、気密測定を実施しない会社もまだまだあります。

私の高気密の基準は、「不要な隙間」が少なく、意図しない漏気もないC値1.0㎠/㎡以下です。ちなみに私が設計する家はいつも0.1~0.4㎠/㎡程度です。

 

気密性能が高いほどちゃんと換気できる

新鮮な空気が給気口(入口)から入り、排気口(出口)から出るまでを、50m走にたとえてみましょう。

「高気密=不要な隙間が少ない家」では、スタートからゴールまで何も邪魔されずに新鮮な空気はゴール(排気)できます。

逆に、「低気密=不要な隙間が多い家」では、隙間から不用意に外気などが侵入してきてしまいます。そして、ゴールするまでに不要な隙間から乱入してくる空気たちに妨害され、新鮮な空気は障害物競走をしているような状態になります。場合によってはゴールを見失って迷子になり、新鮮空気から「汚染空気」になります。

高気密の家は「給気口」から「排気口」まで、設計どおりに空気が動く、「計画換気ができている家」といえます。

 

換気のポイントは、空気経路を長くすること
さて、気密と換気の関係が分かったところで、換気のポイントを見ていきましょう。

第1種、第3種換気のいずれも、換気のポイントは給気口から排気口までの換気経路を長く取ることです。空気が波に長く乗ってサーフィンしているイメージです。

画像の真ん中をご覧ください。リビングの窓からキッチンの窓まで空気が運ばれることで、汚染空気が部屋に溜まることなく空気が波に乗って吐き出されています。

リビング窓からキッチン窓まで換気経路を長く取れている

一方、換気経路が短い(給気と排気が近すぎる)ことをショートサーキットと呼びます。換気経路から遠い空気は、空気の波に乗れない状態になってしまいます。

画像の右下をご覧ください。窓が2つあり、換気の条件はそろっていますが、部屋の隅だけがずっと換気されているショートサーキットが起こっています。この状態では、汚染空気は部屋に滞留し続けてしまいます。

右下の部屋では、部屋の隅だけが換気されている

  • 気密性能を確保すること
  • 空気経路を長く取ること

この2つを意識し、汚染空気のたまり場を家の中につくらない空気の道の設計を心がけてみてください。

□コラム□気密性能と断熱性能は別物
車を想像してみてください。車は高気密だけど低断熱です。
真夏や真冬に駐車をしてエアコンを切ると、数分で寒くなったり、暑くなったりします。特に真夏の車内はサウナ状態になりますよね。

このようにすぐに暑くなるのは車の「断熱性能」が悪いためで、「気密性能」が暑さや寒さを取り除く処置ではないことが分かります。冷気を寒く感じるのは、低気密によって生じた隙間風が肌に当たって寒いと感じるためです。低気密だからいきなり寒くなるわけではありません。
暑さや寒さから守るのは「高断熱」で、計画的な換気や空調に直結するのが「高気密」なので、どちらも家づくりでは必要な性能なのです。

ちなみに、最近話題の「換気機能付きのエアコン」は給気するだけで排気もするわけではないので、換気(給気+排気=換気)はできていませんのでご注意を。

次回は、キッチンまわりの給気と排気についてです。

次回予告
・レンジフードを回すと寒い!
・同時給排気型レンジフードのメリットデメリット
・レンジフードの取り付けポイント

前回の記事:連載⑨「トイレのにおい騒ぎ」はコチラ

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