住宅 建築

「“快適基準寸法”を生かす」スノーピークの家づくり③

アウトドアブランドとして人気が高いスノーピーク。“衣・食・住・働・遊”のフィールドをあまねく網羅し、特に、住宅関連では“野遊びできる家。”をコンセプトに、規格住宅や街並みの監修を含むアーバンアウトドア事業を展開しています。今回は主に、外廻り空間をデザインするためのルールについて紹介します。

外とつながる間取りのルール

 スノーピークの家づくりに関して、間取りのルールについては以下のように定められています。

①:南面に大きな窓を設ける

②:1階にリビングを設ける場合は、掃出し窓越しにウッドデッキのスペースを設ける

③:2階にリビングを設ける場合は、大きなバルコニーを設ける

④:外とのつながりを意識して間仕切壁はなるべく設けない

⑤:庭とのつながりを意識して窓のサイズはできるだけ大きくする

「天野エルカール」では、建物前面(道路側)にL字形の大きなウッドデッキが設けられており、その前面には「アイアングリルテーブル」が置かれている。高さ寸法の調整は“快適基準寸法”に基づいて設定

 

 ただし、①と④と⑤については、断熱・気密性能とのトレードオフが生じてしまいます。高断熱・高気密を大きなコンセプトに掲げた「山形エコタウン前明石」では、HEAT20G2グレード[※]の高い断熱・気密性能で全棟を設計。UA値(外皮平均熱貫流率)が0.34W/(㎡・K)レベルであったため、引違い窓のサイズを「天野エルカール」などよりも小さくするなど、分譲計画全体のコンセプトやコストをその都度吟味しながら、最適な断熱・気密の仕様を決定しています。

※ 居住空間の温熱環境・エネルギー性能、建築耐久性の観点から、外皮技術をはじめとする設計・技術に関する調査研究・技術開発と普及定着を図ることを目的として活動する一般社団法人・20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会が定めた断熱性能の基準。G1~G3があり、G3が最高水準の性能を誇る。G2は室温をおおむね13℃下回らないようにすること(寒冷地ではおおむね15℃を下回らないようにすること)が目標となっている

 

1987年に誕生した“快適基準寸法”

 以上のように、建物全体の設計を進めるうえで、基準となる物差しが存在します。それこそが、スノーピークが長年の商品開発で培ってきた〝快適基準寸法〞と呼ばれる寸法体系です。1987年に設定された、アウトドアで快適に過ごすための秘訣が集約された資料集成ともいえるでしょう。

「アイアングリルテーブル」の“快適基準寸法”を示した図。4通りのキャンプスタイルに合わせて、椅
子や机などのアイテムの高さが設定されている

 

 たとえば、スノーピークの代表的な製品「アイアングリルテーブル」では、天板の高さが次のように設定されています。

①:立って調理作業をする〝ハイスタイル〞では地上高830㎜

②:座面高さ400㎜の椅子に座って仕込み作業をする〝ミドルスタイル〞では地上高660㎜。。立ったり座ったりする動作が快適で年配者に好まれる

③:座面高さ300㎜の低めのベンチに腰かけてバーベキューを楽しむ〝ロースタイル〞では地上高400㎜。多様なシーンに適応でき、人気が高い

④:地面に直接座って調理や食事を楽しむ〝グラウンドスタイル〞では地上高300㎜

「アイアングリルテーブル」の標準高さは地上高830㎜[写真左]。必要に応じて脚を400㎜などに短くすることも可能[写真右]

 

「ローチェア30」は“ロースタイル”に合わせて設計されており、座面の高さが地上高300㎜になっている

 

 この設定寸法がウッドデッキを敷設したアウトドアリビングの仕様を決める基準として機能します。建物全体の計画からディテールまで、〝野遊びできる家。〞には設計のノウハウがいくつも詰め込まれています。これからの家づくりにとって大いに参考になるでしょう。

 

テント、タープ、焚火台など、自然と人、人と人をつなぐキャンプギアをビジネスに取り入れ、クリエイティブな発想や円滑なコミュニケーションを生み出す“キャンピングオフィス”。床座で働くシーンも、‟快適基準寸法”の哲学が生かされている

 

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おわり

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