住宅

【実例】1,200万円で理想の家を建てる!分離発注とは?

みなさんは「分離発注」という言葉を聞いたことがありますか?住宅の分離発注とは、建て主が直接職人や専門工事店と契約して中間コストを省き、コストダウンを図る手法のこと。今回の記事では分離発注のメリット・デメリットと、分離発注を採用して建てた建築家・後藤耕太さんの実例を紹介します。

分離発注の仕組みとメリット

「分離発注」とは、大工・基礎・板金等の各職人や、各種設備会社などとのやり取りを、工務店やハウスメーカーを通さずに、建て主が直接行う形式のことです。一般的には、建て主が各専門工事業者と契約すると同時に、設計を依頼した建築家や設計事務所と設計・監理契約を結び、サポートを受けながら建築を進めます。

  • メリット1:大幅なコストカットが期待できる

形式上は建て主が自分で現場をまとめていることになるため、工務店やハウスメーカーに支払う費用が必要なくなり、大幅なコストカットが期待できます。また、契約した職人や会社が、直接建て主に見積もりを提出することにより、各工事にかかる費用が常に把握できるというのもポイント。どの工事のコストを抑え、その分どこの工事に増やせるかを検討しやすくなるため、適切な部分のコストダウンが期待できるのです。

  • メリット2:希望を叶えやすい

事実上、建て主が現場監督のような立場になるため、それぞれの職人や専門業者と直接コミュニケーションを取る必要があります。そのぶん、意思疎通がしやすく自分の要望をダイレクトに伝えられるので、理想の形に近づけやすいというメリットがあります。

分離発注にするデメリット

  • デメリット1:支払いがややこしい

お金の流れがクリアになりコストカットしやすい一方で、費用のやり取りは建て主が行うことになるので、発注ミスや見積もりの漏れなどがあれば、その都度建て主が追加で負担することになります。

  • デメリット2:工期がはっきりしない

職人や工事店との材料の手配や段取りがスムーズにいかず、工期をはっきりと決めるのは難しいことがあります。

  • デメリット3:建て主の責任の負担が大きい

本来、工務店やハウスメーカーが持つ責任をすべて建て主が負うことになります。工事中からアフターメンテナンスもその責任を負うことになるため、慎重に検討する必要があります。専門的な内容が多く、建て主だけではカバーできない業務もあるため、一般的には施工に詳しい設計事務所と一緒に進めることになります。

 

分離発注を採用した住まいの実例

美しいシンメトリーの外観は、洗練されたプロダクトのよう

岐阜県各務原市の住宅地に建つこの住宅は、分離発注方式で建てられました。洗練された端正な佇まいですが、総工費はおよそ1,200万円の”超”がつくローコスト。

設計した後藤耕太さん(後藤耕太建築建築工房)は、最初の打ち合わせで建て主から予算と要望を聞いたとき、「プロジェクトを成功させるには分離発注方式しか方法はない」考えたそう。

この事例では、設計事務所である後藤さんが工務店の役割を担うかたちで進められました。依頼会社から取った見積もりと、建て主が知り合いの職人に直接取った見積もりを後藤さんがまとめて建て主に提示。工事発注は後藤さんが行い、工事費は建て主から各業者や職人へ直接支払いました。

分離発注+シンプルなプランでさらにコストダウン

露しにした屋根。木造らしい力強い空間になる

分離発注方式は中間コストを省くことができるので、確実にコストカットができますが、建物そのものに費用がかさんでしまっては全体の総工費を安く抑えることはできません。

そこで後藤さんは、まず建物の形状をシンプルな総2階にし、関わる職人の数をなるべく減らすことで人件費をカット。建物を複雑な形にすると壁や柱の量が増え、手間も時間も余分にかかるので人件費が上がってしまうからです。また、シンプルな形状はコストカットというメリットだけでなく、構造が安定し、耐震性を上げることもできます。

屋根の架構をすべて露しにすることで、天井の仕上げ材にかかる費用も削減しています。

2階平面図

1階平面図

プランは階段を中心とした単純な間取り。交通量の多い道路に面しているため、リビングは2階へ配置し、道路からの視線を気にせず過ごせるようにしました。

断熱材は削減していないので快適性も抜群。屋根にはフェノールフォーム60mm、壁には高性能グラスウール24㎏を100mm充填しています。そのおかげで、夏でもエアコン1台で快適に過ごせているそうです。

階段を中心としたぐるりと回遊できる動線は生活しやすい

オープンな壁付けキッチンは、既製品を使わず造作とすることで、空間に馴染ませている

家づくりに直接関わるという貴重な体験を!

分離発注は、建て主の負担や責任が増えますが、裏を返せば、住宅をつくっていく過程に積極的に関われるということです。

「分離発注は、モノづくりが好きで、ハウスメーカーなどに頼んで”なんでもお任せ”というようにしたくない人にはおすすめの方法です。リスクもありますが、一生に一度の家づくりに直接的に関わることは、貴重な体験になります」(後藤耕太さん)

「分離発注」はコスト削減というメリットだけでなく、家づくりに参加する一員として積極的に参加できるという貴重な体験ができます。相応の覚悟は必要になりますが、信頼できる設計事務所と協力してつくりあげた家は、どんな家よりも思い入れのあるものになること間違いないでしょう。

「1200プロジェクト」 建築概要

所在地:岐阜県各務原市
構造:木造軸組2階建て
家族構成:夫婦+子ども1人+犬+猫
敷地面積:256.07㎡(77.6坪)
建築面積:49.69㎡(15.0坪)
延床面積:97.42㎡(29.4坪)
1階床面積:49.69㎡(15.0坪)
2階床面積:47.73㎡(14.4坪)

こちらの記事もおすすめ

【PR】「現場で活躍する建築学生の育成」建築教育のリアル⑤

住宅 建築2022/09/28

この連載では、「実施設計を行い、実際に家を建てる」というユニークな授業を行うフェリカ家づくり専門学校(以下、同校)の教育現場を取材。最終回は、同校の学校長が独自の教育スタイルを貫く理由を語りました。

「庭と照明で視覚的な仕掛けをつくる」お洒落で落ち着くカフェ空間のつくりかた②

2020/07/16

慌ただしい日常を離れて、ゆったりと時間を過ごせるカフェ。「カフェのような家に住んでみたい」という需要も高まっています。ここでは、カフェ界を牽引する「スターバックスコーヒージャパン」に究極のカフェ空間のつくりかたを徹底取材。そのポイントをまとめました。

「在来軸組構法とC L T の融合」木造軸組とCLT②

建築2021/11/12

成瀬友梨氏+猪熊純氏が設計を手がけた「meet tree NAKATSUGAWA」(岐阜県中津川市)は、木造在来軸組構法とCLTを組み合わせてできた4号建築物です。地元産の木曽ひのきをふんだんに使用した建物で、木造建築の可能性を示唆しています。YouTubeの動画でも、その魅力をもご覧ください!

歴史と文化を生かすリノベ術②

新着 建築 インタビュー2022/11/22

〝大正浪漫〞の趣を残す温泉街にある木造建築「銀山温泉 本館古勢起屋」が、建築家・瀬野和広氏の改修設計により、当時の趣をそのまま生かした形で現代によみがえりました。内外装ともに、大正時代に一世を風靡した木造の洋館建築の設え。歴史と文化を繋ぐ、その設計術を紐解いていきます。

「真夏はつらいよ」低気密低断熱住宅に住んだルポ②

連載2020/10/09

こんにちは。一級建築士の神長宏明です。私は、エアコンを24時間つけっぱなしでも月々の光熱費が1万円以下で済む高気密高断熱住宅を設計していますが、住んでいるのは【低気密低断熱住宅】です。連載2回目は、7月~9月の実際の住み心地をレポートしていきます。

Pick up注目の記事

Top