住宅 建築 インタビュー

「外国人向け木質空間」寒冷地で別荘をつくる方法ー③

自然豊かな北海道、特にニセコや富良野では、外国人の不動産投資が活況。自然と一体化したダイナミックな建築が数多く計画されています。今回は、外国人向け別荘の設計を数多く手がける須藤朋之氏(SAAD/建築設計事務所)に、建築計画や断熱・気密の考え方をお伺いしました。

開放的な空間&木の内外装

建物の形は非常に個性的です。「外国人のクライアントは個性的なファサードを志向する傾向が日本人よりも強いです」(須藤氏)。しかも、リビングには必ず大きな開口部が設けられます。加えて、傾斜地である場合は、基礎や山留めの設計に手間がかかるほか、積雪荷重(ニセコ町では2.3m)を考慮して構造計画を練る必要があり、意匠計画との適切なバランスが求められます。

たとえばRC造(ラーメン構造)で壁面いっぱいに開口部を設けると、その壁面には一切の耐力要素がないことになります。その場合は、建物の偏心を考慮しながら、開口部と対面する壁の大部分を耐力壁として、その部分に水平荷重を集中させます。それによってできた壁面は水廻りや収納などの間仕切壁などとして使用すればよいでしょう。

一方、木造(在来軸組構法)の場合は、壁面いっぱいの開口部を設けるのは難しいです。垂壁のない天井高いっぱいの連窓を設けるなどして、ある程度の開放性を確保しています。

 

CASE3 木造充塡断熱 地元産の木材を内外装に生かす/FWE

木造ならではの勾配屋根(3寸)と、木質系で統一された内装が印象的な別荘「FWE」。構造は在来軸組構法。落雪が建物周囲に積もることを想定し、軒は出していない。結果として、外観がすっきり見える。屋根と外壁は充填断熱。高性能グラスウールを躯体内に敷き詰め、室内側に別途、防湿気密シートを張って、気密性を高めている。北海道の木造戸建住宅で一般的な付加断熱は、別荘のため、行っていない

天井はスプルース羽目板の目透かし張り。壁は、キッチンの吊り戸棚収納を含めて、シラカバをカツラ剥きした合板仕上げ。床はカバのフローリング仕上げ。色味の似通った木材の組み合わせによって、全体の統一感を確保しながら、適度なアクセントを付けている

スクエアな空間のなかに、吹抜けを兼ねる階段を斜め45°に振って配置したプラン。階段の手摺壁は、現しにした柱と、ランダムに配置した間柱を組み合わせた構成となっているので、空間のアクセントとして機能している。LDKには壁面いっぱいの窓はないものの、ポツ窓を設けるなどして、外の景色がどの位置からも見えるように工夫している

基礎は北海道で一般的な基礎外断熱。押出法ポリスチレンフォームを基礎立上りに合わせて張り付け、地面から露出する部分については、モルタル仕上げとした。外壁は、1階部分については積雪の深さを考慮する必要がある。そのため、モルタルの雰囲気に近い「ジョリパット」(アイカ工業仕上げとする一方、2階部分は北海道産のスギ羽目板張りとした。通気層(胴縁)は基礎立上り天端から屋根まで一体となっており、外壁の仕上げが切り替わる部分もスムーズに空気が上昇する。2階部分のスギ板を横胴縁の厚さ分張り出すように取り付けることで、切り替え部分に見切り役物を使用しない納まりとした

冬の間は雪の中に埋もれるので、2階部分が雪の上に浮いて見えるように、仕上げ材を上下階で別物としている。室内も上下階で仕上げを別物とし、外部環境を意識させるようにした

リビングから羊蹄山の景色を見る大開口。柱の外側で、アルミの型材を使ってガラスを押さえているので、内側からは枠が見えないすっきりとした納まりになっている。中間部は構造体(胴差)をそのまま見せた。左側のサッシは北海道に本社のあるm.a.p製の木製サッシ、右側のサッシは「エピソード Type S」(YKK AP)[※1]。

 

※1 YKK APは2021年アルミ樹脂複合窓を集約統合し、新たに「エピソードⅡ」とシリーズ名称を統一するとともに、断熱性能・機能性の強化を行っている

 

寝室のインテリアも木質系の素材で統一。廻り縁や幅木のない納まりとしているほか、奥に見える造作の建具も壁面と同じ面材(シラカバの合板)としている。目に見える要素が少なく、すっきりとした設えとなっている

 

仕上げについては、内外装ともに木質系の素材を多用しているのがポイントの1つ。特に、北海道はシラカバの産地でもあります。「内壁の仕上げとして気に入っているのがシラカバをカツラ剥きした合材です。ローコストで、合材を組み合わせたときの木目の変化がきれいで、上品な印象を与えます」(須藤氏)。

外装には、耐久性を考慮して、スギやカラマツ、レッドシダーなどの素材が用いられています。木の羽目板で建物全体を包み込むデザインや、RC打放し仕上げとの組み合わせで仕上げるケースが多いといいます。「RC打放しとする場合は、凍害による白華が懸念されるので、それを防止するような措置[※2]を施すようにしています」(須藤氏)。

 

※2 凍害を防止するには、工事範囲をシートで覆い養生、温室状態をつくり、ヒーターで全体を温める。ただし、完全密閉空間をつくるのは不可能。冬期は凍害が懸念される工事を避けるのが望ましい

 

須藤朋之[すどう・ともゆき]
2005年Southern California Institute of Architecture[SCI-Arc](Los Angeles, USA)学科卒業。’05〜’07年Amphibian Arc(Los Angeles, USA)に勤務。’09年Architectural Association School of Architecture[AADRL](Londond, UK) 修士課程修了。’09〜’13年にフロリアン・ブッシュ建築設計事務所( Tokyo, Japan)に勤務。’14年に独立後、’15年にSAAD/建築設計事務所設立

 

写真=益永研司

 

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