開放的な空間&木の内外装
建物の形は非常に個性的です。「外国人のクライアントは個性的なファサードを志向する傾向が日本人よりも強いです」(須藤氏)。しかも、リビングには必ず大きな開口部が設けられます。加えて、傾斜地である場合は、基礎や山留めの設計に手間がかかるほか、積雪荷重(ニセコ町では2.3m)を考慮して構造計画を練る必要があり、意匠計画との適切なバランスが求められます。
たとえばRC造(ラーメン構造)で壁面いっぱいに開口部を設けると、その壁面には一切の耐力要素がないことになります。その場合は、建物の偏心を考慮しながら、開口部と対面する壁の大部分を耐力壁として、その部分に水平荷重を集中させます。それによってできた壁面は水廻りや収納などの間仕切壁などとして使用すればよいでしょう。
一方、木造(在来軸組構法)の場合は、壁面いっぱいの開口部を設けるのは難しいです。垂壁のない天井高いっぱいの連窓を設けるなどして、ある程度の開放性を確保しています。
CASE3 木造充塡断熱 地元産の木材を内外装に生かす/FWE
木造ならではの勾配屋根(3寸)と、木質系で統一された内装が印象的な別荘「FWE」。構造は在来軸組構法。落雪が建物周囲に積もることを想定し、軒は出していない。結果として、外観がすっきり見える。屋根と外壁は充填断熱。高性能グラスウールを躯体内に敷き詰め、室内側に別途、防湿気密シートを張って、気密性を高めている。北海道の木造戸建住宅で一般的な付加断熱は、別荘のため、行っていない
※1 YKK APは2021年アルミ樹脂複合窓を集約統合し、新たに「エピソードⅡ」とシリーズ名称を統一するとともに、断熱性能・機能性の強化を行っている
仕上げについては、内外装ともに木質系の素材を多用しているのがポイントの1つ。特に、北海道はシラカバの産地でもあります。「内壁の仕上げとして気に入っているのがシラカバをカツラ剥きした合材です。ローコストで、合材を組み合わせたときの木目の変化がきれいで、上品な印象を与えます」(須藤氏)。
外装には、耐久性を考慮して、スギやカラマツ、レッドシダーなどの素材が用いられています。木の羽目板で建物全体を包み込むデザインや、RC打放し仕上げとの組み合わせで仕上げるケースが多いといいます。「RC打放しとする場合は、凍害による白華が懸念されるので、それを防止するような措置[※2]を施すようにしています」(須藤氏)。
※2 凍害を防止するには、工事範囲をシートで覆い養生、温室状態をつくり、ヒーターで全体を温める。ただし、完全密閉空間をつくるのは不可能。冬期は凍害が懸念される工事を避けるのが望ましい
須藤朋之[すどう・ともゆき]
2005年Southern California Institute of Architecture[SCI-Arc](Los Angeles, USA)学科卒業。’05〜’07年Amphibian Arc(Los Angeles, USA)に勤務。’09年Architectural Association School of Architecture[AADRL](Londond, UK) 修士課程修了。’09〜’13年にフロリアン・ブッシュ建築設計事務所( Tokyo, Japan)に勤務。’14年に独立後、’15年にSAAD/建築設計事務所設立
写真=益永研司