住宅

「寒い!レンジフード問題」低気密低断熱住宅ルポ⑪

こんにちは。一級建築士の神長宏明です。私は、エアコンを24時間つけっぱなしでも月々の光熱費が1万円以下で済む高気密高断熱住宅を設計していますが、住んでいるのは【低気密低断熱住宅】です。この連載では、低気密低断熱住宅の住み心地を数回に分けてレポートしていきます。11回目は、冬場寒くなるキッチンのレンジフード換気の話です。

神長家の概要
■家賃:約9万円/月(3,250万円のローンを組んだときと月の返済額は大体同じ)
■立地:宇都宮駅から車で15分
■築年数:築29年(1991年8月竣工)
■延べ床面積:125.44㎡(37.94坪)
■断熱性能:築年数と天井断熱材の状況から昭和55年基準と推定(昭和55年区域区分Ⅲ・栃木県・Q値4.7)。無断熱ではなく、断熱材は気持ち程度入っている状態

間取りは、一般的な玄関ホールを挟んで、LDKと和室に分かれている。2階の15帖の洋室は神長さんの仕事部屋として使っている

超強力なキッチンのレンジフード

キッチンのレンジフードは料理中のにおいやけむりを吐き出すために必要な排気口です。ほかの排気口に比べるとかなりの風量で排気されるため、レンジフードを付けると部屋が一気に「負圧」になります。連載⑨で書いたようにトイレのにおいも引っ張ってしまうくらい強力です。

寒い! キッチンの換気問題

わが家のレンジフードです。強弱の設定はできません。回すと物凄い勢いで排気され、冬はガス台背面のドアから冷気が大量に入ってきます。妻はモコモコスリッパをはけば、寒さには慣れたと言っています。

築29年のわが家のレンジフード。つけると足元が寒くなる

このように冬にレンジフードをつけると、足元が冷える経験をした人も多いのではないでしょうか? 給気口を低い位置に設置していると、冬場は冷気が足元から入り、頭付近を通過してレンジフードから排気されるため、寒さを感じてしまうのです。

レンジフード対策にはショートサーキットが有効
連載⑩では、「換気経路で波に乗る距離が短いショートサーキットをつくらないように」とお伝えしましたが、レンジフードは例外です!
レンジフードの換気ではショートサーキットさせることが大切になります。

私が住宅を設計するときは、給気口をレンジフードの近いところに設置することで、足元に冷気が通り過ぎない最短ルートで換気できるようにしています。

給気口と排気口を近づけて配置(ショートカットさせている)

この家ではダクト式の第1種換気を採用しており、レンジフードの給排気口は、24時間換気とは独立させています。また、「排気連動給気口」となっており、レンジフード(排気)をONにすると、同時に給気もONになり、OFFにすると、給気もOFFになります。

ちなみに、「電動シャッター付給気口」を選ばないと穴が開きっぱなしになり、24時間換気がうまく作動しないので注意してください!

給気口と排気口を近づけて配置したときの平面図

まとめると、

①二酸化炭素などの汚染空気を換気するための24時間換気は「ショートサーキットさせない(空気の入口と出口の距離を長くする)」

②料理の際に発生する汚染空気を排出するための換気のみ「ショートサーキットさせる(空気の入口と出口を短くして、空気の流れを頭上で完結させる)」

ということを私は心がけています。

デメリットなし!? 同時給排気型のレンジフード

給気と排気を一体にした同時給排気型のレンジフードもあります。

メリット①は、給気させてすぐ排気させる(ショートサーキットさせる)ので、部屋の空気に影響をあまり与えません。一般的なレンジフードは室内の熱を捨ててしまう状態になります。

メリット②は、給気と同時に排気されるので調理中の煙などの排出効率も高くなります。

メリット③は、一般的なレンジフードの場合、大風量なので室内が負圧になり、キッチン台の排水溝からポコポコといやな音がしたり、コンセントBOXからヒューヒューと異音がしたり、ドアが勢いよく閉まったりします。同時給排型レンジフードの場合はこのようなことがなくなります。

メリット④は、数十年後の話ですが、年月が経つと気密性能は新築当初から比べると若干悪くなります。一般的なレンジフードでは、引き違いの窓の上下や、床と壁の境目から冷気を引っ張ってしまいます。同時給排型ならこれを防ぐことができます。

同時給排型のデメリットは正直ありません。値段が高いというのはデメリットではなく、排気とセットで必要な給気も付いているので、一概に言えないと考えています。同時給排気にすると、弊社では2万円UPくらいです。

同時給排型はダクト使いに注意!

ただし、さきほど紹介したレンジフードの近くに給気口を設ける方法と、同時給排型を比べるとデメリットが2つ生まれます。

デメリット①、前者の場合は、給気をダクトレス(壁付け)で設けることが可能ですが、同時給排の場合は排気だけでなく給気にもダクトが必要になります。

同時給排型レンジフードの場合、排気と給気用のダクトが必要となる

デメリット②は、同時給排型は、下の写真のように外側に位置する排気口と給気口の距離を2mくらい離す必要があります。

同時給排型レンジフードを採用した家。外壁面に位置する排気口と給気口を1.8m離している

下の写真は仮に排気と給気を近づけた加工画像です。排気口と給気口は近すぎると、せっかく排気した空気を再び給気口が吸ってしまうのです。

排気口と給気口が近いと、給気口が汚い空気を吸い込んでしまう(画像は加工したもの)

なので、給気口と排気口はどちらかが西側なら片方は北側に出すなど、できるだけ「出す面」を変える必要があります。

つまり、同時給排型の場合、ダクトの調整を見えない部分でしなければならないため、前者に比べて設計の難易度が上がるという個人的なデメリットを感じています。

具体的に図面でご紹介します。

玄関横の北面から給気し、ダクトを通ってレンジフードに入り、キッチンの南壁面から排気される

ダクトには防火&結露対策を!

同時給排気型のレンジフードの場合、火災予防条例や、排気口に冷たい空気が入ることで特に冬場に結露しないように断熱処理をしています。下の写真のように「厨房排気ダクト用防火材」を排気ダクトに巻き付ける必要があります。

火災予防条例第3条の4では「厨房設備」に附属する「排気ダクト等」と書かれており、給気ダクトに関しての記載はないのですが、結露防止のために給気ダクトには断熱材で被覆したいですね。

排気口に巻く「厨房排気ダクト用防火材」。これを巻くと直径+25㎜になる

レンジフードの排気口に「厨房排気ダクト用防火材」を巻いた状態。レンジフードの位置を決めるために、先行して取り付けた

給気口は、冬に冷たい空気が通るのでダクトが冷えます。そのため、ダクトに室内空気が触れるとダクトが結露してしまうおそれがあります。それを避けるために断熱をします。

給気口に断熱材をつける

断熱材を取り付けた状態

 

最後に、レンジフードの給排気を、「素早くついて、素早く水をつける」餅つきにたとえてみましょう。排気が餅つく人、給気が水つける人だとすると、「素早く排気して、素早く給気させる」、そんな関係を実現することが大切です。

 

次回は、築29年の低気密低断熱住宅の劣化についてです。

次回予告
・天井の黒シミはカビ?!
・外壁のひび割れ
・子ども達の成長

前回の記事:連載⑩「効率のよい換気のポイント」はコチラ

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