3D設計・プレゼン時代の ハイエンドP C(1)

BIMなどの3D-CADやVR、レンダリングなどに対するニーズは日増しに高まっています。ただし、こうしたソフトウェアには、それなりのハードウェアが必要です。ここでは、PCを選ぶために必要となるスペックの見方について解説します。

はじめに

「建築知識2020年7月号」(建築と背景画の3DCG最新技術)は、発売5日目にして増刷となりました。BIMなどの3D-CADやVR、レンダリングなどに対するニーズの高まりの結果といえるでしょう。ただし、こうしたソフトウェアを活用するには、それなりのハードウェアが必要です。
 かつての設計事務所では、Mac OS(米Apple)を使用する人が多かったものの、汎用性や操作性の高さといった観点から、現在では、Windows OS(米Microsoft)のPCを使用する人が増えているようです。実際、BIMのソフトウェアには、Windows OSにしか対応していない製品が存在します[※1]。今後はリモートワークの推奨により、より使い勝手のよいPCが求められるでしょう。 
 ここでは、Windows PCを選ぶために必要となるスペックの見方(部品の名称・能力)について解説します。まずはMPUとGPUについてです。

※ 1 「 Revit」(オートデスク)「ARCHITREND ZERO」(福井コンピュータアーキテクト)はWindows OSにしか対応していない。「ARCHICAD」(グラフィソフトジャパン)は、Windows OS・Mac OS の両方に対応している

MPU

コア数・スレッド数の多いものを選べ

MPU(Micro Processing Unit)とは、演算処理を行うパソコンの心臓。CPU(Central Processing Unit)ともいいます。かつては半導体製造技術の微細化[※2]によるトランジスタの高集積化などによって高性能化を図っていましたが、リーク電流により、消費電力の増大や動作遅延が顕在化。2005年ごろに大きくシフトチェンジすることになりました。

シングルコア         デュアルコア     

2000年代中盤までは主流だったシングルコアのMPU。作業負荷が非常に高く、発熱量も相当なものに。あまりの熱さに、MPUを搭載したマザーボード上で“目玉焼き”がつくれるという都市伝説も登場

コアどうしで作業負荷をシェアできるというメリットがある。2005年に登場した。その後、半導体製造技術も90nmから65nm、45nm へと微細化が進み、トランジスタの集積度向上によって性能が大幅に向上した

 

 

 

 

 

 

 


それが、MPUのマルチコア化です。コア(心臓)の数を物理的に増やし、並列処理を行い、従来のMPUよりも大幅な性能向上を図るという考え方になります。PC向けのMPUでは、当初2コア(通称:デュアルコア)でしたが、現在では10コアを超えるMPUもリリースされています。したがって、MPUのスペックを判断するときに、注目してほしいのはコア数です。BIMの使用を想定すれば4コア(通称:クワッドコア)以上、リアルタイムレンダリングの使用を想定すれば8コア(通称:オクタコア)以上のMPUを選びましょう。
 加えて、ソフトウェアの技術として、仮想的にコア数を増やす技術も採用されています。それをスレッドといいます。スレッドを用いれば、4コアの場合は8スレッド、8コアの場合は16スレッドになります。結果として、作業負荷に応じてコアの作業量が細やかに調整されるため、無駄のない高速な並列処理を行うことができるように。したがって、コア数・スレッド数の総和でMPUの性能を比較すればいよいのです。

オクタコア(8スレッド)   オクタコア(16スレッド) 

3D-CADやリアルタイムレンダリングに適したオクタコアのMPU。さらなる並列処理と半導体製造技術の微細化によって性能が向上している(Intel は14nm、AMD は7nm)。10 コア以上のMPU はまだ数少ないが、近い将来増える見込み

スレッドの技術はシングルコア時代の末期に登場した。MPUコアの作業負荷に応じて、1 つのコアで2つの作業を同時に処理できる。同じオクタコアMPUでも、スレッド数8のものとスレッド数16のものでは後者のほうが性能は高い

 

 

 

 

 

 


PC向けのMPUは、米Intel米AMDがリリースしています。圧倒的なシェアを誇り、数多くのソフトウェアの動作環境として推奨されているのはIntel製ですが、MPU自体の性能はAMD製もまったく引けを取ることはありません。Intel製では「インテル® Core™ プロセッサー・ファミリー」がお薦め。同製品群は用途や性能ごとに“i××”の品番が割り振られているのが特徴。設計・プレゼン業務は“i7”もしくは“i9”の品番を選択しましょう[※3]「インテル® Core™ i9-9900K プロセッサー」は8コア/16スレッドのMPUです。
 一方のAMD製では「AMD Ryzen™ 3000シリーズ・プロセッサー」[※4]。特に、「AMD Ryzen™ 93950X」は16コア/32スレッド、「AMD Ryzen™9 3900X」は12コア/24スレッドと、2020年6月現在、このクラスではIntelよりもマルチコア化・マルチスレッド化が先行しています。

オフィスにあるワークステーションにリモートアクセスできる無償ツール「HP ZCentral Remote Boost」(日本HP)のイメージ。3D-CAD/CGなど機密性が高く大きなデータを扱われるユーザーは、社外へのデータの持ち出しが許されていないケースが少なくない。RDP(Remote Desktop Protocol)などでのアクセスではパフォーマンスが著しく低下するため、出社が余儀なくされている。一方、「HP ZCentral Remote Boost」では、画面のピクセルデータを1/170に圧縮・暗号化し転送するため、リモート環境下でもオフィスにいるのと変わらない作業性とセキュリティを実現する


※ 2 半導体を構成するトランジスタのサイズはnm オーダーと非常に小さい。1nm は原子3 個分くらいの大きさ(ウイルスの大きさは100nm 程度)である。2020 年5 月現在、Intelは14nmプロセスと呼ばれる製造技術でMPUの量産化を行っている。一方、AMDはIntelに先んじて、より微細な7nmプロセスでの量産を行っている(製造は台湾Taiwan Semiconductor Manufacturing Company[TSMC])。AMDがマルチコア化に先行しているのは、製造プロセスの優位性によるところが大きい

※3 「 インテル® Core™ プロセッサー・ファミリー」は7つのクラスに分類されている。“i7”と“i9”は上位クラスにランク分けされ、“ i7”は最大8コア/16スレッド、“i9”は最大10 コア/20 スレッド

※4 AMD のPC 向けMPUとしては“Ryzen” のほかに“Athlon” というブランドがある。“Athlon” も日常使いのPCとしては申し分ないパフォーマンスを発揮する

 

GPU

リアルタイムレンダリングには「GeForce」

G P U(G r a p h i c s P r o c e s s i n g U n i t)とはグラフィック処理専用のプロセッサ。グラフィックボードの中核をなす部品であり、C G やゲームには欠かせないデバイスです。MPUだけでは4Kや8Kレベルのリアルな画像を、高速・高精細に処理することはできません。一方、数千個以上のコアを使用して高速並列処理を行うGPUでは、複雑な描画を高速に処理することができます。

MPU            GPU                     

MPU はPC全体の演算処理を行うデバイス。コアも比較的大きい。グラフィック処理も行えるが、GPUに比べると時間がかかる

GPUは画像処理専用のデバイス。コアは非常に細かく、数千個にも上る。グラフィック処理の速度はMPUを大きく凌駕。リアルなゲーム体験を可能にする「NVIDIA GeForce RTX 2080 Ti」(NVIDIA)のコア数(CUDAコア数)は4,352

 

 

 

 

 

 

 


その1つとして“レイトレーシング”という機能があります。光の伝播を忠実にシミュレーションすることで、写真のようにリアルな画像をつくり出す技術です。ガラスの光沢や日差しの入り方、仕上げ材の艶感などを相手に伝えるには欠かせない機能。最先端のGPUを使用すれば、こうした処理が可能になるほか、「E n s c a p e」(独Enscape)など、リアルタイムレンダリングソフトを使用すれば、高精細な映像のなか、ゲーム感覚で、自由な画面の切り替えや移動が行えます。したがって、プレゼンの質をより高めるためにも、GPU(グラフィックボード)の力は欠かせないのです。

リアルタイムレンダリングソフト「Enscape 2.7」を用いて行ったレイトレーシング。窓から差し込む光や仕上げ材の艶感をリアルに表現できる。リアルタイムレンダリングなので、この画像クオリティを維持しながら、移動したり、仕上げ材の変更ができるメリットが実に大きい[協力:田口建設(TAGKEN)×カガミ建築計画]。リアルタイムレンダリングソフトを用いた“Virtual Tour”の様子はこちらから



“単体GPU”のメーカー[※5]としては、米NVIDIAAMDの2社が挙げられるものの、現在では、NVIDIAのシェアが圧倒的に高いです。同社のGPUは「GeForce」「Quadro」の2ブランドがあります。一般的に、「GeForce」を搭載したグラフィックボードは比較的安価で3Dゲーム向け、「Quadro」は設計作業や動画編集に向いているとされています。
 ただし、リアルタイムレンダリングのような動きを伴い、高さや仕上げ材をその場で変更するなどの臨場感が求められるプレゼンでは「Geforce」のほうが適しており、設計用途だからといって必ずしも「Quadro」を選択する必要はない。グラフィックボードは「N V I D I A G e f o r c e RTX 20シリーズ」がお薦めです。

※5 MPUとのセットでは、IntelもGPUを供給している。それを“総合GPU”という。ただし、2021年からは同社も単体のGPUを市場に投入する方針を発表している

メモリとHDD・SSDについての記事 3D設計・プレゼン時代の ハイエンドP C(2)はこちら

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