木造建築への追い風が吹いています。非住宅の木造化・木質化を後押しする2019年度の法改正に伴う規制緩和、RC造やS造の価格高騰、消費者の環境志向…など。一方、断熱性、耐火性、遮音性など、木造建築を計画するうえで乗り超えなければならないハードルは低くありません。今回は、2019年度グッドデザイン賞を受賞した在来軸組構法によるホテル「星野リゾート BEB5軽井沢」(佐々木達郎建築設計事務所)を例に、設計のポイントを2回に分けて解説します。
「ジャパンホームショー2020 建築知識実務セミナー」(2020年11月13日)での佐々木氏の講演も合わせてご覧ください。
3 木の構造材を生かしたインテリア
2で紹介したように、ほとんどの柱が石膏ボードで被覆されているものの、「星野リゾート BEB5軽井沢」の空間は、雑木林に抱かれたような温かく和やかな印象を受けるでしょう。その理由は、「この場所に訪れた人が自然と木に触れる機会を増やしたいと思い、大きな躯体のなかに小さな建築のような家具を配置したから」(佐々木氏)。
具体的には八溝山系[※1]の国産ヒノキ(JAS集成材)を使用し、木のフレームで囲まれたようなインテリアを構成した。集成材であるものの、板目を見せて無垢材のような表情に見せたこともポイント。特に、1階は大きなワンルームになっており、カフェスペース、ライブラリー、ソファスペースなどの場所が、林に見立てた木の家具によって緩やかに区分されている。
「躯体は予算の制約で現しにできない部分もありました。ただ、加工性の高い木を家具として空間にあしらうことで、木のある空間の豊かさを表現しました」と佐々木氏は話す。
4 十分な遮音性能の確保
続いては遮音性能。木造は音が反響しやすいので、プライバシーの確保が課題になります。ホテルでは特にシビアな問題。床の遮音は、根太の断面やピッチを増やすこと、合板を厚くすることで床の剛性を高め、振動を最小限に抑えたほか、乾式2重床を採用し、重量衝撃音の反響を抑えました。壁の遮音は、遮音性能に優れる高性能グラスウールを間仕切壁に充填。間柱の配置も工夫して、太鼓現象[※2]の発生を抑制しています。
5 植栽を活かす板金の外装
鬱蒼と生い茂る雑木林のなかに建つ「星野リゾート BEB5軽井沢」。漆黒の外観は、その存在感を際立たせています。仕上げは屋根・外壁ともにガルバリウム鋼板の立はぜ葺きです。屋根・外壁に採用されたのは、上品な風合いが感じられる風合いと高い耐久性を両立させた「耐摩カラーSGL」(日鉄鋼板)[※3]。色は〝耐摩ネオブラック”が選ばれました。
「当初は、建築家にも人気が高い〝耐摩いぶし銀〞を検討していましたが、光が当たると白っぽくなるという特性が、『星野リゾート BEB5軽井沢』のような大きな面で使うのであれば、外観が引き締まらないと感じ、光が当たっても色の変化が少ない〝耐摩ネオブラック〞としました。軽井沢は色の濃い外装の建物が多いので、周囲の環境にもなじむと考えています」(佐々木氏)。
「星野リゾート_BEB5軽井沢」のプロジェクトは予算内に収まり、ホテルは連日にぎわっている。耐震性や防火性、遮音性など1つひとつの課題を解決していけば、木の魅力に触れられる木造建築はもっと身近な存在になるでしょう。「ジャパンホームショー2020」で開催される「建築知識実務セミナー」では、佐々木氏が、「星野リゾート BEB5軽井沢」の設計(2020年11月13日:13:45~14:45)と題して、講演を行います。お時間のある方は、ぜひ会場にお越しください。
※1 茨城県と栃木県、福島県にまたがる山系
※2 上階の床面での音が床下の空間を伝わり、共鳴、共振して下の階にいる人に大きく聞こえる現象
※3 「耐摩カラーSGL」は、「エスジーエル」と呼ばれるガルバリウム鋼板のめっき層に、マグネシウムの防錆効果をプラスした次世代ガルバリウム鋼板。一般的なガルバリウム鋼板に比べて3倍超の耐食性を実現しており、塩害が懸念される海岸近くでも、海岸から500m以遠であれば、穴あきに対して最長25年、塗膜に関して同15年の品質保証を設定している
佐々木達郎[ささき・たつろう]
1979年生まれ。大学卒業後、東環境・建築研究所に入所。「星のや軽井沢」をはじめ、日本各地や海外において住宅や別荘、ホテルなどの設計に携わる。その後、2013年に独立し、佐々木達郎建築設計事務所を設立。インテリアデザインから、ホテルなどの施設まで多岐にわたる空間設計を行っている。「星野リゾート BEB5軽井沢」で2019年度グッドデザイン賞、「星野リゾート OMO5 東京大塚」でウッドシティTOKYOモデル建築賞 優秀賞を受賞。メディア掲載多数
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