マンションと戸建住宅という“住まい”の用途にスポットを当て、リノベーションを徹底的に解説した一冊『住まいのリノベ設計塾』(2023年11月発売)。同分野で数多くの設計実績をもつ各務謙司氏(カガミ建築計画)と中西ヒロツグ氏(イン・ハウス建築計画)が、間取り・設備・断熱・水廻り・造作家具・法規…というテーマに分け、豊富な写真と図面を交えて手法をひもといた同書のなかから、近年需要が高まる断熱改修(Part5 費用対効果の高い断熱改修)の一部を公開します。
RC造マンション
断熱改修は吹付けが基本
RC造マンションの断熱改修を行う場合は、内断熱となります。吹付け硬質ウレタンフォームによる断熱と、ボード系断熱材(フェノールフォームや押出法ポリスチレンフォーム、ポリイソシアヌレートフォームなど)による断熱という2つの選択肢になりますが、スケルトン状態に解体するのであれば、前者がお薦めです。
その理由は以下のとおりです。
① 柱形や梁形によって生じる凹凸や、躯体そのもののゆがみ・不陸に断熱材が追従するため、断熱欠損が生じにくい
② メーカーの責任施工となるため、断熱・気密の品質が安心
ここで、表面を大幅に削り取る100倍発泡品(連続気泡タイプ)では別途気密処理が必要となりますが、30倍発泡品(独立気泡タイプ)は表面を大幅に削り取る必要がなく、別途気密処理が必要ありません。熱伝導率も0・026W/m・K以下と、100倍発泡品の0・040W/m・K以下に比べて低く、断熱性能も高くなっています。
吹付け硬質ウレタンフォームによる断熱改修
※1 吹付け硬質ウレタンフォームとは、ポリイソシアネートとポリオール、触媒、発泡剤などを混合したウレタン原液を発泡して成形した断熱材。建築用としては主に「JIS A9526 A 種1H」と「JIS A9526 A 種3」の2種類がある。前者は30倍発泡、後者は100倍発泡の断熱材。30倍発泡品は、断熱性能(熱伝導率)および施工性において、100倍発泡品よりも優れている
ただし、より多くの厚さを一度に吹き付けようとすると、断熱材が発熱するおそれがあるので注意が必要です。日本ウレタン工業協会によると、総厚さが30㎜を超える場合は多層吹きが望ましいです。
また、1日の施工厚さは、80㎜を超えないようにしましょう。あまり分厚くしすぎると、発熱反応による熱の蓄積で内部にスコーチ(焼け)が発生し、燃焼する危険性があります。また、施工面のクラック(割れ)の発生要因ともなります。トラック・コンプレッサーの使用料金にも関係するので、慎重に検討したいところです。
一方、ボード系断熱材には、コンプレッサーのホースが届かない高層マンションでも施工できるというメリットがあります。トラックからのホースの長さは約100mとなっており、ビルの20階くらいまでが限度[※2]。おおむね乾式工法で、大工が下地をつくる作業の流れで断熱材の施工ができる点も特徴です。
※ 2 最近では持ち運び式のコンパクトなコンプレッサーも登場しているが、大面積をカバーするには出力が弱く、費用も高くなってしまう
ボード系断熱材(フェノールフォーム)による断熱改修
ただし、躯体にはゆがみや不陸があるので、断熱材をそのまま張ってしまうと隙間が熱橋になってしまいます。不陸を解消するための左官下地をつくり、その上から断熱材を張り付け、ボードどうしに隙間が生じないような気密処理を行うのが理想的。したがって、吹付けの場合に比べて施工に時間がかかる点を理解しておきましょう。 [各務謙司]
各務謙司[カガミ建築計画]
木造戸建住宅
気流止めは最低限のマナー
木造戸建住宅の断熱改修において、外壁や天井(屋根)では、内壁を解体して柱径と同厚の高性能グラスウールを隙間なく充填するのが最も一般的です。このとき、防湿層付きのもの(袋あり品)と、もしくは防湿気密シートを別張りとするもの(袋なし品)とのどちらかを選択することになります。
既存の木造住宅にはほぼ例外なく躯体にゆがみや間崩れがあるので、手間はかかるものの、袋なし品を充填したうえで、防湿気密シートを張るのが理想的。柱・間柱間の寸法がバラついていたとしても、臨機応変に対応しやすいです(外壁側の透湿抵抗が大きい場合は夏型結露に有効な調湿気密シートを張る場合もあります)。
高性能グラスウール(袋なし)による断熱改修
ただし、予算の関係で、袋あり品を採用することも少なくありません。この場合は、躯体にしっかりと密着させたうえで、袋どうしを気密テープで連続させるなどして、断熱層・防湿層の一体化を図りましょう。
高性能グラスウール(袋あり)による断熱改修
加えて、空気が自由に動いてしまわないよう、壁と天井、壁と床(土台)の取合い部などに気流止めを施工しましょう。断熱材を全面的に充填するのが予算的に厳しい場合でも、気流止めは必ず施工すべきです。
方法としては、圧縮パックされた高性能グラスウールを隙間に差し込むのが一般的。カッターで切れ目を入れるとグラスウールが膨張し、隙間はほぼ完全に埋まります。
圧縮パックで気流を止める
床・基礎では、基礎断熱よりも床断熱を選択するケースが多くなります。その理由は、既存の基礎は不陸が多く、気密性を確保しにくいので、基礎断熱を行ったとしても、室内化するのが難しいからです。
そのため、1階の床組を解体して、大引と根太の間に断熱材を充填する方法が基本となります。断熱材の選択肢は、ボード系断熱材や高性能グラスウールといった繊維系断熱材のいずれか。前者のほうが価格は高いものの、熱伝導率が低く、根太(45㎜)の間で高い断熱性能を得やすいです。
基礎断熱よりも床断熱
床断熱を行う際に注意したいのが、浴室床下との関係です。木造戸建住宅の浴室は1階にあることが多く、特別な理由がない限りは浴室を移動することはありません。そこで、床断熱を行う場合、浴室床下との断熱ラインを連続させることが重要になります。幸いにも、最近のユニットバスは断熱性能が高いので、これを採用する場合は、浴室床下を別途断熱する必要はありません。ただし、ユニットバスと外壁・床の取合いから、空気が流出入してしまうおそれがあるため、気流止めを忘れないように施工しましょう。
天井・屋根では、外壁と同様に高性能グラスウールを採用することが多くなります。とりわけ、天井を解体して小屋裏をロフトや吹抜けなどに利用する場合は、屋根の断熱・遮熱性能が重要となります。
特に、屋根面からの放射熱の侵入には要注意。屋根断熱は天井断熱に比べて15%増の熱抵抗値が求められるうえに、昼夜の温度差で内部結露が起こりやすいため、確実に小屋裏換気ができるよう、棟換気金物と通気部材を採用すべきでしょう。 [中西ヒロツグ]
中西ヒロツグ[イン・ハウス建築計画]