第6回「日本エコハウス大賞」最終審査会レポート

2022年9月20日に第6回「日本エコハウス大賞」最終審査会(JAPAN ECOHOUSE BIG SHOW 2022〈JEB〉)が行われました。この記事では、最終審査会の様子をレポートします。

2022年9月20日にオンラインで配信された第6回「日本エコハウス大賞」最終審査会(JAPAN ECOHOUSE BIG SHOW2022〈JEB〉)。設計審査員5名とゲスト審査員5名の合計10名のバラエティ豊かな審査員が、「これからのエコハウス」について議論を交わしました。

コンテストの最終審査会に残ったのは、11のノミネート作品です。

本記事では、どのような観点で議論が進められていったのか、部門ごとにダイジェストで紹介します。

新築部門(戸建住宅)

新築部門ではじめに議論されたのは、プランについてです。エコハウスという性質上、閉ざされた空間になりがちですが、空間の伸びやかさや家事動線、限られた延床面積のなかで設計がうまくなされているかを各審査員が評価しました。

ノミネートNo.1「御代田の住宅」(久保一級建築士事務所)の内観。大開口とのびやかに広がる大屋根の空間が特徴(動画はこちら)

ノミネートNo.2「桜と水辺の住まい」(暮らしの工房)の内観。北側にあえて大きな窓を設けて公園への視線の抜けをつくった(動画はこちら)

ノミネートNo.6「静岡パッシブハウス」(CAC建築工房&鎌倉寿建築設計室)の内観。2階にリビングを設け、コンパクトなプランを実現した(動画はこちら)

また、断熱気密性能そのものの数字は語られることなく、建物が建つ地域に合った換気計画、給湯器の選択、太陽光発電の有無など、新築時に選択すべきエコ設備に議論が広がりました。

特に昨今話題になっている太陽光発電については、最終審査会のどの部門でも注目される論点となりました。たとえば、建築予算の関係で太陽光発電が採用できなかったとしても、リースやPPA方式といった新しい選択肢を提案できたかどうか。また、屋根の大きさに対して搭載されている太陽光パネルの比率は適切どうかなど、施主とのコミュニケーションに質疑応答を重ねる場面がありました。

「段階的に太陽光パネルを増やす計画は理解できるが、新築時に太陽光を載せる方法を検討してほしい」という審査員サイドの意見もあり、新築住宅においてカーボンニュートラルに対する観点はこれからのスタンダードとして捉えられています。

今回のコンテストでは、新しい外構計画についても注目が集まりました。土地の購入時にあった従来型の擁壁を取り払い、まるで山道のような景観に馴染むアプローチをもったノミネートNo.4「風土と共に育つ家」は、審査員一同から大きな賞賛を得ることとなりました。

ノミネートNo.4「風土と共に育つ家」(パッシブデザインプラス)。擁壁を取り払ったことでまちに対する印象がガラリと変わった(動画はこちら)

新築部門(賃貸住宅)

これから徐々にニーズが高まるであろう「高性能賃貸住宅」。先進的でニッチな性質上、入居者募集の方法や属性、入居者と地域との関わり方が論点となりました。

最終審査に残った2作品の高性能賃貸住宅は、いずれも都会から移住する子育て家族をターゲットとし、移住地でマイホームを購入する前段階の住まいとして建てられました。そのエリアの賃貸住宅の相場と比べて割高であっても、オーナーがTwitterで話題を集めていたことですぐに入居者が決まった、というニッチさゆえの高反響を得られた物件もありました。

ノミネートNo.3「軽井沢 六花荘」(暮らしと建築社)の外観。オーナー自らのTwitterで入居者を募集。すぐに全室満室となった(動画はこちら)

いずれの入居者も「エコハウスに住む」という共有の価値観があり、加えて子育て世帯という同じバックボーンをもっているためか、入居者同士の交流は盛んに行われているとプレゼンターは言います。こういった住人同士の交流を活性化すべく、共同住宅のなかに共有スペースを設けて、カルチャースクールや子どもの習い事スペース、サロンとして活用しているノミネートNo.5「御代田D&D」も好評でした。これから醸成されていくコミュニティについても期待が高まっています。

ノミネートNo.5「御代田D&D」(アイダアトリエ)の外観。奥から賃貸住宅、オーナー住宅、コモンスペースとなっている(動画はこちら)

自然エネルギーの観点では、住宅の屋根にのった太陽光発電は「集合住宅の場合、誰に恩恵を与えるものか?」と質問に挙がりました。この質問に対しての回答は、入居者全員に恩恵がある場合もあればオーナー住居だけで利用できるケースもありました。これからは賃貸住宅においても入居者が自然エネルギーを活用できることが建物の魅力創出の1つになっていくことが予想できます。

エコリノベ部門

リノベーションのレベルが格段に上がった第6回目の本コンテスト。リノベーションは、住まいの取得方法の選択肢の1つとして施主自らが選ぶ時代がやってくる先駆けになるような内容でした。

エコリノベ部門では建物の性能アップ(断熱改修と耐震工事、長寿命化)について論点になるほか、リノベーションだからこそ実現できる、古さを纏った意匠についても議論になりました。また、ずっとそこにあり続ける建物だからこそ、街とどうやってつながるかの視点も話し合いのなかに含まれていました。

ノミネートNo.7「田野上方の家」(アーキテクト工房Pure)の内観。築30年の家の躯体がしっかりしていたことから、建て替えではなく改修を選択した(動画はこちら)

ノミネートNo.8「南馬込古民家改修」(あすなろ建築工房&鈴木アトリエ)。築140年の面影を残す丁寧な改修が行われた(動画はこちら)

140年の古民家改修については、家族が代々住みつなぐための資産や相続といった現実的な問題にも目が向けられました。

審査員からの「歴史的価値の高い古民家は、いずれ地域の方が使う場所となるケースもある。つまりパブリックな投資としても捉えられるがそういった認識はありますか?」という質問に対して、プレゼンターは「地域社会に受け入れられる大前提として、地震でつぶれない安全性を確保しているかが大切です」と回答。図面もない古民家の確認申請を行い、耐震改修や断熱改修、間取り変更など、地に足が付いた計画の背景が垣間見えました。

リノベーションだからといって安価にできるものではなく、新築とは違ったスキルや知見が必要になります。単純に、建物をリノベーションして住み継ぐだけでなく、これから地域と紡ぐ物語性や、住まい手の想いの部分にまで触れた質疑応答となりました。

モデルハウス・自邸部門

モデルハウス・自邸部門では3作品が最終審査に残り、それぞれが自ら挑戦したテーマに沿って議論が繰り広げられました。三者三様の社会的意義が垣間見えました。

数々の議論が行われたなかでも、中古住宅の不動産価値の向上と、深刻な職人不足を見据えた生産性向上・業務効率化が質疑応答の鍵を握っていました。

中古住宅のリノベーションの作品では、建物の性能向上と資産価値について話が白熱しました。不動産的価値の向上の度合いと、性能(断熱の欠点を的確に判断して必要があれば減築を行い、耐震的な配慮と省エネ、断熱設計をしている点)を天秤にかけた目利きが評価されました。インテリアも古いものと新しいものが融合した良さにも触れられていました。

ノミネートNo.9「築57年の葉山の家」(桑原 誠二)の内観。将来の売却額を見据えて適切な改修工事を施した(動画はこちら)

もう1つの作品は地域に住む人たちに向けて、改修した自邸を開放する取り組みもなされていました。この取り組みを「連作型空き家改修」と名付け、施主自ら空き家を購入。その後、設計・改修して住み、あるタイミングで購入+改修費を上回る売値で売却。次の空き家を探して直して住む…、そういうご近所付き合いのような小さな市場で行われる新しい住まい方の価値観が斬新だと評価。

ノミネートNo.10「がんばり坂の家」(リージョン・スタディーズ)の内観。設計者である施主自らが空き家を購入・改修・売却を繰り返しながら優良なストックをつくる(動画はこちら)

最後の作品、大工職人による自邸は、大工である自身の業務効率化や生産性向上などを目的に、国産材大型パネルを採用。このような新しい手段を習得することで、手刻み、プレカットだけにこだわらない適材適所の選択ができることになるほか、工期短縮への道筋として好意的な意見交換が行われました。

ノミネートNo.11「富士を望む家」(天野保建築)の内観。大型パネルを使って生産性を上げ、内装の造作などに時間を費やせた(動画はこちら)

それぞれの作品の新しい取り組みが、これまでのエコハウスの課題解決の結果であり、努力の成果であり、また次の世代につながるエコハウスであることが手に取るように分かった審査会となりました。

審査員講評と受賞者からのメッセージはこちら https://korekara-maps.jp/13749/

最終審査後の入賞作品一覧はコチラ https://korekara-maps.jp/13402/

ノミネート11作品のプレゼン動画はコチラ https://korekara-maps.jp/12761/

日本エコハウス大賞公式サイトはコチラ https://builders-ecohouse.jp/

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