規格住宅から抜け出す
地域性と周辺環境の読み取り方
「住宅設計がしたい」と夢を抱く若者が、設計という仕事をどう捉えているのでしょうか。ただ単に、平面プランを書くことと考えていないでしょうか?
フェリカ家づくり専門学校(詳細は記事の最後)「住宅設計=ハウスメーカー」と位置づけ、就職先を探す学生も増えています。規格製品の住宅が建ち並ぶ昨今において、生まれ育ってきた家がそうであった場合、彼等にとって規格製品がスタンダードだとすれば、「同じじゃない」家の魅力を知らずにいることも否めません。そうした若者の既成概念を壊すために、同校では設計時に「地域性」の読み取り方を教えています。
地域性を視野に入れると住宅は規格化できない
住宅設計の第一義である地域性。日本のどこに住むか、海沿いか山間かそれとも平地か。雪は積もるか、台風の多い地域ではないか。こうした気候風土によって、屋根の形状や窓の捉え方も異なります。そのため、どこの家並みも同じにはなりません。また、寒冷地に建つ家はデザインだけでなく高気密高断熱知識や、高効率な間取りや製品性能について重きを置く必要があります。
そして、日本には四季があります。日本の伝統的な住宅形式には、夏の太陽高度に合わせた長い庇や、寝殿造の遣水(やりみず:庭に巡らす人工的な細流)のような、自然と共存するためのさまざまな工夫が見られます。環境学を学ぶことで、自然環境から受ける影響(恩恵と弊害)のコントロールの方法や、人の体感としての快適性に関わる問題を知ることができます。
さらに、もう少しミクロの視点で周辺環境に目を向けてみましょう。すべての住宅は一つとして同じ敷地に建つことはないので、敷地形状や周辺環境の特性が計画の条件にもなります。
たとえば、眺望(見たい景色)があるか、外に対して家を開くべきか閉じるべきか? といった人の心理的な快適性に大きく関わることもあり、それが設計の骨子となることもあります。
いずれにしても、立地が違えばすべての規格住宅が当てはまるわけではありません。地域性と周辺環境を注意深く観察すれば、住宅性能だけでは片付けられない、そこに建つ家唯一の「心地よさ」と「独自性」につながるヒントがあると学生に伝えています。
敷地周辺の心地よさを家に取り込む
ここでは、同校の授業「実施設計を行い、実際に家を建てる」プロジェクトで採用した、地域性を取り込んだ例を紹介します。
「風の透る家」では、夏の暑さを軽減する工夫として、東南東からの風向きを利用し河川越しの涼やかな風を室内に効率よく取り込む、風の通り道を考えました。
「街道沿いの家」では、建物の西側道路沿いに常緑のシマトネリコを植えました。夏の西日を遮り、目隠しとしても有効です。風にサラサラとそよぐ葉が見た目にも涼しい。
市街地に建つ「街中の巣」は、周囲の音や視線から住人を守る中庭型にしました。南向きの居室床はタイル張り、中庭から入る日射のダイレクトゲイン効果を狙いました。
「利根川沿いの家」は、変形敷地に合わせてDK 部分を川の方角に約57 度振り、北東方向に開放。三角形のデッキを突き出し、自然を積極的に感じる形状となっています。
連載①「図面を書く意味とは?」はこちら
取材先「学校法人フェリカ学園 フェリカ家づくり専門学校(※)」
建築・インテリアのプロフェッショナルを育成するための学校。学校側が土地を購入し、設計・施工までを行う超実践な家づくりの教育で注目を集めています。
家創り実践科(4 年制)にて家づくりのAtoZ を学びたい学生を全国から募集。3 年次編入枠有り(対象:大学建築学部卒又は二級建築士所有者のみ)。
※フェリカ建築&デザイン専門学校は2022 年4 月より名称を上記に変更する
[公式サイト]https://felica.ac.jp
[所在地]群馬県前橋市南町2-38-2
[TEL]0120-343-750