建築

「木造軸組+CLTの利点」木造軸組とCLT①

成瀬友梨氏+猪熊純氏が設計を手がけた「meet tree NAKATSUGAWA」(岐阜県中津川市)は、木造在来軸組構法とCLTを組み合わせてできた4号建築物です。地元産の木曽ひのきをふんだんに使用した建物で、木造建築の可能性を示唆しています。YouTubeの動画でも、その魅力をもご覧ください!

木曽ひのきのCLTを用いた木造軸組の4号建築物

 木曽桧は、秋田杉、青森ヒバと並ぶ日本三大美林(天然)の1つとして知られています。なかでも、伊勢神宮で20年に一度実施される〝遷宮〟と呼ばれる建替えに使用されるのは、木曽桧のみ。ですが、木材利用における産地・樹種の選択肢が輸入材を含めて多様化するなかで、木曽桧の魅力を改めて発信する必要がある、というのは想像に難くありません。

 

中山道の宿場町として発展した中津川市の街並み。遠くに山並みが見える。写真中央の右側に見えるのが、2面道路に接道する「meet tree NAKATSUGAWA」

 

 こうしたなか、2019年に産声を上げたのが「meet tree」というコスメブランド。木曽ひのき(人工)の植林や製材、木造戸建住宅などの施工を手がける丸山木材工業のグループ会社であり、木曽桧がもつ人の体に優しい成分を原料とするボディケア商品の企画・販売を行っています。
 
 2021年3月には、商品の販売やカフェ、美容室(ネイルサロン)を併設する複合施設「meet tree NAKATSUGAWA」(岐阜県中津川市)がオープン。カフェでは、中津川特産の栗を用いたモンブランをはじめ、地元産の果物にこだわったスイーツが提供。ネイルサロンは、東海地方を中心に美容事業を展開するビーファーストが運営しています。

木曽ひのきをラミナに用いたCLT(5層5プライ)の天井と、木曽ひのき集成材の柱・梁・筋かいが、構造の力強さとヒノキならではのやさしさを表現している。2つの屋根の交差によって生まれる高窓の方向に視線が抜ける。内装はシックなグレーでまとめ、適度なコントラストを付けている。カフェのカウンターテーブルなどにも木曽ひのきのC LT(3層3プライ)を使用している。置き家具も地元産のナラを使用した飛騨産業の製作によるもの

 

 建物は木造の平屋造り。意匠設計は成瀬・猪熊建築設計事務所、構造設計は丸山木材工業のグループ会社である木構堂が手がけました。構法上の特徴は、柱と梁による在来軸組構法でありながらも、屋根(水平構面)に木曽ひのきを原料(ラミナ)とするCLT(Cross L aminated Timber )を使用していること。柱と梁に鉛直荷重を負担させ、耐力壁(筋かい)に水平荷重を負担させることにより、4号建築物での設計を可能にしています。

 

カフェからエントランスを見返すと、開口部に交差する筋かいが目に留まる。向かって左側からは柔らかな光が差し込む。外壁と軸組(柱・梁・筋かい)の位置を意図的にずらして、軸組全体をインテリアの要素として生かしている

 

木造軸組+CLTがもたらすさまざまな利点

 具体的に建物の特徴を見てみましょう。外観は屋根が2つに分かれているのが大きな特徴。躍動感のあるバタフライ屋根とシンプルな片流れ屋根を組み合わせています。2つの屋根を交差させることで、高窓のスペースを確保して開放感を強調し、同時にバタフライ屋根ならではの逆勾配を生かして、角地側に大きな開口部を設けています。

 加えて、内装は、ピンクがかった木曽ひのきの色味・質感を前面に押し出した木質空間。CLTの天井と、それを力強く支える軸組の架構そのものがインテリアとなっていいます。接合金物が目立たないように、構造物の取合いを工夫し、木材が直接つながっているような納まりを実現。こうした細部へのこだわりが、時々刻々と変化する日の光によって微妙に変様する木曽ひのきの表情に、〝美しさ”をもたらすのです。

 

設計を手掛けたの猪熊純氏(左)と成瀬友梨氏(右)。エントランスは全面開口となっている。在来軸組構法ならでの筋かい耐力壁が空間に開放性をもたらすほか、インテリアのアクセントとして効いている

 
 CLTは木材の利用拡大や木造建築の可能性を広げる新しい建築材料として期待されていますが、ほかの木質材料に比べて高価で、設計・施工の標準化もまだまだ進んでいません。その課題を解決するための1つのアプローチとして、木造軸組構法との組み合わせは合理的な試みといえるでしょう。燃えしろを生かした防耐火性能は申し分なく、造作家具の材料としても評価が高いのです。

 「meet tree NAKATSUGAWA」には、地元の人をはじめ、多くの人々が訪れる。柱や筋かいに手を触れられることも相まって、若い人は写真に収めるなど、建物そのものにも大きな魅力を感じているとのこと。時代が大きく変化するなかで、木造建築の魅力を社会に向けて発信する拠点であることは間違いないでしょう。

 

②につづく

 

林業家・丸山大知氏と建築家・成瀬友梨氏+猪熊純氏の対談は

こちらのYouTube動画でご覧ください!

 

意匠設計:成瀬・猪熊建築設計事務所/構造設計:木講堂/施工:丸山木材工業 

写真=ToLoLo studio

こちらの記事もおすすめ

「子ども視点で見る住環境」低気密低断熱住宅ルポ⑯

住宅2022/02/08

こんにちは。一級建築士の神長宏明です。私は、エアコンを24時間つけっぱなしでも月々の光熱費が1万円以下で済む高気密高断熱住宅を設計していますが、住んでいるのは【低気密低断熱住宅】です。この連載では、低気密低断熱住宅の住み心地を数回に分けてレポートしていきます。16回目は、子ども視点で考える性能の低い家の温熱環境についてです。

〝住まい〞の設計は無目的を旨とすべし―増田奏―②

インタビュー2022/01/28

おかげさまで「建築知識」は2021年7月号で通巻800号記念を迎えました。それを記念して、『住まいの解剖図鑑』の著者である増田奏氏(SMA)に、「建築知識」での思い出や、書籍誕生に関する秘話、これからの家づくりについてお話を伺いました。新刊『そもそ もこうだよ 住宅設計』も紹介!

「過酷な冬の住環境」低気密低断熱住宅ルポ⑮

住宅2022/01/14

こんにちは。一級建築士の神長宏明です。私は、エアコンを24時間つけっぱなしでも月々の光熱費が1万円以下で済む高気密高断熱住宅を設計していますが、住んでいるのは【低気密低断熱住宅】です。この連載では、低気密低断熱住宅の住み心地を数回に分けてレポートしていきます。15回目は、性能の低い家の冬の実況レポートです。

「クロゼット内の異臭」低気密低断熱住宅ルポ⑧

住宅2021/04/06

こんにちは。一級建築士の神長宏明です。私は、エアコンを24時間つけっぱなしでも月々の光熱費が1万円以下で済む高気密高断熱住宅を設計していますが、住んでいるのは【低気密低断熱住宅】です。この連載では、低気密低断熱住宅の住み心地を数回に分けてレポートしていきます。8回目は、クロゼットの異臭の原因を突き止めます。

工務店の社屋が熱い!鹿児島の丘の上の工務店。衣・食・住を提案<動画あり>

住宅2020/11/02

鹿児島の工務店、粹家創房(いきやそうぼう)は、家づくりのほかにギフトショップやカフェの運営、オリジナルプロダクトの販売なども手掛けるオールマイティな工務店。なぜ、家づくりだけでない幅広い事業を手掛けているのでしょうか?代表の冨ヶ原さんにお話を伺ってきました。

Pick up注目の記事

Top