外廻りのデザインルール
アウトドアブランドの事業で培った知見を生かした住宅・街づくりに関するデザイン監修に関しては、分譲戸建住宅「天野エルカール」・「山形エコタウン前明石」、分譲マンション「パークホームズ立川」・「パークタワー晴海」での実績をもっています。加えて、2021年12月には、新たな分譲戸建住宅「野きろの杜」も発表されました(「野きろの杜」の設計手法については、“外構・エクステリア”を特集のテーマにした「建築知識2022年3月号」にて解説しています)。
それでは分譲戸建住宅を中心に、スノーピークが提案する〝野遊び〞のできる家を設計するためのヒントを具体的に紐解いてみましょう。コンセプトは以下の3つ。
・境界線のない連続する街並み
・人が集まりつながる場
・アウトドアリビングのある住まい
これらを建物のボリュームや外廻りの計画に落とし込むと、以下のような設計のルールとなります。
①:構造は木造在来軸組構法が望ましい
②:階数は2階建てで、建物の軒高7m以下・最高高さ9m以下とする(遠くに見える山の稜線を楽しめるように)
③:屋根のカタチは片流れ・切妻屋根2種類の3パターンから選び、全体としての統一感を演出する
④:外観のノイズとなるアルミ製のカーポートは原則的に設置禁止
⑤:ブロックや金属などでつくる隣地境界塀は設けず、生垣もなるべくなくし、近隣とのつながりを演出する
⑥:外装材にはなるべく自然素材(国産のスギ材など)を使用し、〝地産地消〞を実践する
⑦:庭はプライバシー性の高い裏庭ではなく、街並みに開くように前面道路側に設ける
これらのルールが徹底されています。たとえば⑥について、「天野エルカール」(新潟県新潟市)では、多雪地帯で力強く育った〝魚沼杉〞を、外壁材(縦羽目板押縁張り)やウッドデッキなどに使用しています。
スノーピークがプロデュースした分譲住宅
天野エルカール
2018年に初のプロジェクトとして竣工。全29区画のうち、10区画の戸建住宅監修を手がけてます。そのうちの1区画では、建物外壁に“魚沼杉”を使用(押縁付きの縦羽目板張り)しており、建物の経年変化が楽しめます[写真上]。各住戸には大きなウッドデッキ(庭)が設けられていて、降り注ぐ日差しのもとでバーベキューを楽しめます[写真下]。
パークホームズ立川
2017年に竣工。1階住戸(15室)の居室と庭の中間に“半ソト空間”を設置しています。リビングの前面にウッドデッキと芝生スペースを設け、プライベート性の高い半屋外空間を提案している。最上階と同じ程度の価格を設定したにもかかわらず、1階から先に完売しました。
山形エコタウン前明石
2019年に竣工した「山形エコタウン前明石」(19区画)は、アウトドアライフを楽しめることに加え、高い断熱・気密性能を実現しているのが特徴。プロジェクトには建築家・竹内昌義氏(エネルギーまちづくり社・東北芸術工科大学)も参加しています。2021年9月に、新しく竣工した建物で実施した気密測定試験では、気密性能の指標となるC値(隙間相当面積)[※]が0.1㎠/㎡を記録しており、最高クラスの気密性能を達成しています。計画された住宅は3つのタイプに分類されます。
※ 気密性能の指標で、床面積1㎡当たりの隙間量を㎠で表したもの。C値が小さいほど気密性能が高いことを示す
「吹抜けのある家」
1階にはウッドデッキとつながる大きなLDK、その中心に吹抜けを設けた間取り。上下階の温度差が少なくなっているので、温熱環境の維持が難しい大きな土間を含めて、四季を通じて快適な暮らしが実現しています。
「デッキテラスのある家」
2階にLDKを設ける場合はバルコニーをアウトドアリビングとして活用。ここでは、バルコニーの下に車2台を駐車できる大きさのルーフデッキバルコニーを設けています。
「土間のある家」
1階に、大きな玄関土間とLDK、ウッドデッキを設けています。アウトドアグッズを多く所有する家族に最適な間取り。
外廻りデザインのルールが街並みに豊かさをもたらす
スノーピークが定めた景観を維持するガイドラインの例(街並みのパースは「山形エコタウン前明石」のもの)。建物のボリュームを制限するほか、なるべく大きな庭を設けて、各住戸間の境界をあいまいにすることで、緑豊かな街並みを実現しています。外壁材にも基準を設け、なるべく自然素材で仕上げるようにしています。