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ブルースタジオ・大島芳彦、 増田奏設計の自邸を “ 二世帯化リノベ”する。①

ブルースタジオ・大島芳彦氏の自邸「大島邸」は、1991年に『住まいの解剖図鑑』の著者・増田奏氏が設計を手がけた住宅。2020年に原設計を生かしながら、高断熱・高気密の二世帯住宅としてリノベーションされました。本記事では大島氏が建築当時からの思い出と、リノベーションのポイントを語ります。

改修後の2階LDK。長手方向に大きく広がる1室空間で、階段室の間仕切も一部をスチールサッシのガラス建具として空間をより大きく見せている。平天井は解体して勾配天井とし、天井は1階LDKと同じく羽目板張り(クルミ合板)で仕上げた

 

築30年の〝枯れたよさのある家〞

「大島邸」が完成したのは1991年。そのとき私は、建築学科に通う大学3年生でした。しかし、大学入学と同時に実家を離れていたので、この家に住んだことはなかったのです。しかも、建築に興味があるにも関わらず、設計を手がけてくれた増田奏さん(SMA)と父との打ち合わせに、自分は参加したことがありませんでした。増田さんとは軽く挨拶を交わすくらいの関係。今思い返せば不思議でしょうがなく、打ち合わせに参加しておけばよかったな、と少々後悔しています。

実際に住んだことはありませんでしたが、時々は実家に帰っていました。そのときの印象をひと言で表現すると、今まで自分が体験したことがないような建築。当時は平成バブルの真っただ中。建築の世界では、デザイナーズマンションが一世を風靡していた時代でした。壁が斜めだったり、窓が三角だったり…。そうしたポストモダンの建築に自分も興味を抱いていたのですが、この家はそれとは一線を画す建築。落ち着きのある〝枯れたよさのある家〞、と感じていたものです。

 

Before 

2F

4つの個室で構成される2階。プレイルームの窓際には小さな吹抜けが設けられており、勾配天井の1階LDKと空間がつながっている

1F

1階は建物を北西側に寄せて配置。南東側の中央に桟橋のようにLDKを突き出し、両側に大きな庭を設けている。北側は玄関扉を開くと奥に坪庭が見える

 

最初に玄関扉を開くと、正面の坪庭が目に入る、というのは実に刺激的ですね。建物のカタチが十字形で、リビング・ダイニングが緑のなかに突き出したような設え。両側に大きな開口部が設けられ、内と外の一体感が感じられます。水のせせらぎもあり、気持ちよさを感じていたものです。ポストモダンの建築にはない魅力に満ち溢れていました。

 

『住まいの解剖図鑑』に登場する「大島邸」

「大島邸」は『住まいの解剖図鑑』の156頁に、建物の配置に関して“庭は南側に配置するとは限らない”の例として解説されている。十字形の建物を配置して四隅に庭を設けたプラン。設計を手がけた 増田奏氏は「大島さんのお父さんが、新木場で開催されていた木造住宅展示会に足を運んでくれて、私と中島工務店の展示内容に興味をもってくださったのが設計依頼のきっかけでした。庭のデザインは、ランドスケープデザイナーとして著名な中谷耿一郎さん。建物が木立の中に浮かんでいるような佇まいになっています。私は、桟橋を想像させるので、『PIER HOUSE』と名付けています」と語る

 

関連記事:“住まい”の設計は無目的を旨とすべし―増田奏―はこちらから

 

とりわけ父は庭にこだわりをもっていて、増田さんと密に打ち合わせて、古き良き武蔵野の面影が感じられる庭を完成させたようです。父は戦前、新宿の牛込・市ヶ谷界隈に住んでいたのですが、祖父と一緒に戦火を逃れてこの杉並に疎開してきました。緑豊かな原風景は、雑木林の景観です。今は住宅密集地になっていますが、この家ではそれが感じられるのです。

 

「大島さん(写真)が大学在学中に、米Southern California Institute of Architecture(SCI-Arc)に留学する話があり、お父さんから電話で相談されたこともあるのですが、SCI-Arcで建築を学べるというのはまたとない機会。ぜひ、行かせてあげてください、と助言したことを覚えています」(増田氏)

 

〝二世帯化リノベ〞で社会問題を解決

リノベーションを行うに至った理由はさまざまですが、私は長男であり、父母が住んでいる家を今後どうしていくかを考えるのは至極当然のことでした。加えて〝既存社会が抱える資源の有効活用〞をテーマに仕事をする私としては、高度経済成長期から今に至るまで極度に進んだ1世帯1住戸という日本の住宅に対する無駄の多い価値観に対して、常日ごろから違和感を感じていました。電気やガス、水などのエネルギー効率という観点では、複数の家族が1つ屋根の下に住むほうが望ましい。なので、当社に住宅購入の相談に来る人に対し、近年ではこちらから「積極的に二世帯住宅に住むお気持ちはありませんか?」と問いかけるようにしています。

とりわけ、当社へ相談に来る世代は30歳〜40歳代で、住宅の一次取得層が多く、親世代はバブル期の前後に、都心から電車で1時間以上かかる地域に庭付きの立派な戸建住宅を建てた人が多いのです。今では両親が2人で、もしくは単身で住まわれているケースも多く、建物が十分に使い切れていない、という問題が顕在化しています。

こうした郊外での二世帯化を推進するべく、2017年には『お家にかえろう』という漫画を自主制作し、PR用に無料配布しました。〝二世帯化リノベ〞を勧めるものですが、「長男の家にお嫁さんが入る、というカタチの二世帯住宅はやめたほうがよい。首都圏出身の奥さんの実家に地方出身の旦那さんが入る」というストーリーを設定しています。エネルギー効率が改善されるだけではなく、子育てや介護なども効率的に行えるようになるので、いま社会に存在するさまざまな問題を同時に解決できる可能性があるのが〝二世帯化リノベ〞なのです。

 

After

2F

2階は間仕切を撤去してLDKに変更。吹抜けにも床を張り、大空間とした(防火地域における増築なので、確認申請を行っている)。子世帯用の水廻りも整備

1F

1階の間取りはほぼ変更していない。趣味室では大島氏がリモートワークを行う。2階に直接アクセスできるように階段を設けている。母親の居室には水廻りの設備を設置

 

加えて、近年では平均寿命が延びたことに伴い、60歳〜70歳代の人も元気ハツラツ。60歳代半ばでもローンが組めるようになりました。親がローンを組んで負債(マイナスの資産)をつくっておけば、遺産総額を減らすこともでき、相続税の節税手法になり、子世代の負担が軽減されるとともに、余った資金をほかの用途に使えるなど、生活の質も向上するでしょう[※1]

さらに以前は、中古住宅のリノベーションに対して、金融機関が住宅ローンをなかなか組んでくれませんでした。しかし、リノベーションが一般化した現在では、住宅ローンも積極的に貸し出すようになっています[※2]。以上のようなことを総合的に考えても、〝二世帯化リノベ〞は実に合理的です。ちなみに築約30年の「大島邸」では、フルスケルトンリノベーションを行い、工事費は8千万円近くかかりました。これ、昔であれば、ローンの審査を通らなかったでしょうね。

 

※1 相続税を算出するための遺産総額は、プラスの資産(現金・預貯金、金融商品、不動産、保険金など)からマイナスの資産(借金・未払金、葬儀費用など)を差し引いたもの。相続税は遺産総額から基礎控除をマイナスした金額が対象になる
※2 リノベーションを行う場合に利用するローンには、リフォームローンと住宅ローンの2種類がある。両者を比較すると、リフォームローンが“借入限度額が小さい・返済期間が短い・金利が高い”、住宅ローンは“借入限度額が大きい・返済期間が長い・金利が安い”という特徴がある

 

語り=大島芳彦(ブルースタジオ)
写真=平林克己 / 協力=増田奏(S M A)+『住まいの解剖図鑑』

 

②につづく

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