住宅 建築 連載

リノベーションが創造する 過去のある未来②

住宅に限らず、商店・ビルなど、さまざまな用途分野で活性を高めているリノベーション。本対談では、設計者としていち早くからリノベーションを手がけてきた各務謙司氏と中西ヒロツグ氏が、建築としてのリノベーションの魅力や、長年の経験で培われてきたノウハウについて語ります。

臨機応変に現場で対応する

各務 続いて必要な職能としては、現場で臨機応変に対応するという能力が挙げられるでしょう。新築に比べて工期が短いことはもちろん、これまでの経験からいえることです。リノベーションでは解体工事の現場に入ってから判明する問題がかなり多いのです。

先ほど、中西さんに、確認済証が残っていないという話をしていただきましたが、図面の管理がしっかりされていると思われがちな分譲マンションでも、既存図が保管されていないケースや、既存図が現況と一致していないケースはよくあります。

既存図どおりであっても、躯体が歪んでいるケースなどは多々あります。壁のつくり方をどのようにするのか、などの対処法はその場で判断しなければなりません。解体後に、壁下地をLGSとする部分やコ
ンクリートの壁にそのまま仕上げを行う部分を見極めているのはよくあるケースです。

中西 私が手がけることの多い木造戸建住宅も例外ではありません。実際に建物を解体してみないと分からないことは多いので、常にさまざまな可能性を想定するように心がけています。そのためにはプランを複数もっておくことが必要です。シロアリによる食害はよく見受けられるケース。原状回復については見積りには含まずに実費精算とし、別途予算枠を設けておくようにしています。

壁が倒れているケースもよくありますし、「上鷺の家」(2006年)のように、解体してみるとどういうわけか、梁成が途中で変わっていて、当初予定していた柱を抜くというプランが難しいケースがあります。柱を残すか、取るにしてもまくら梁で補強するかなど、複数案のなかから最善の答えを導いていくことが必要です。

 

「上鷺の家」の解体時写真。梁成が中央付近の柱を境にして異なっていることが分かる。ここでは、まくら梁を抱かせたうえで、柱を新たに立て梁が鉛直荷重でたわまないようにしている

改修後はリビング、ダイニングと一体のオープンキッチンへと変更。手前の柱は梁が交差する部分にあるため、撤去できない独立柱として露し、空間のアクセントとした

 

必然的に新築に比べて現場監理の回数は多くなりますし、現場で方針を決めるという即決力も求められます。現場での対応力といえば、マンションリノベーションでは工事中の音にも気を使わなければなりませんよね。

各務 それはいつも悩ましい問題です。マンションで発生する音の問題は非常にデリケートです。解体工事において、シンダーコンクリートを斫るときや躯体にアンカーを打つときには特に注意を払います(管理規約でアンカー打ちが禁止されていることもあるので要注意)。近隣からのクレームにもなりかねませんから……。できるだけ音を小さくする工夫が求められます。

通常は斫り機械で解体を行うのですが、管理組合が厳しく、近隣からのクレームが入るケースも想定された「南麻布T邸」(2015年)「青山P邸」などのように、場合によっては比較的騒音が発生しづらいコア抜きとパッカーを組み合わせた工法を用いて、シンダーコンクリートの斫りを行っています。

 

パッカー工法で解体を行った在来工法による浴室の床。床は三層に分かれており、上から保護モルタル、防水層、嵩上げコンクリートで構成されている。壁際はパッカーを使えないので、コアを連続にして抜いている

 

あらかじめ壁際や梁際にはコンクリートのコア抜きを行い中央部は、油圧を駆動力としたパッカー(圧砕機・セリ矢)を差し込んで、コンクリートにひびを入れて割っていく工法です。工事中に求められうるこうした臨機応変な対応力は、ぜひとも必要な能力なのです。

 

暮らし方をより具体的に提案する

中西 続いて挙げられる職能として、各務さんも先ほど指摘されていたような、建物の使用方法を再提案する能力が挙げられると思います。住宅においては、「暮らし方をより具体的に提案する能力」
と言い換えられるでしょう。クライアントの暮らしを丁寧に観察して、現状よりもより良い提案をすることが求められます。

新築では、まっさらな敷地に建物の骨組を構築し、建物の内外を自由に仕上げていくことができますが、リノベーションでは、そのような思考パターンが成立しにくいというのが実感です。その建物のもっているポテンシャルを活かし実現可能な答えを導きだしていくことが重要です。

各務さんとの共同設計による「田園調布F邸」(2012年)では、天井裏の大きなスペースが有効に活用されていませんでした。天井を撤去して大きな吹抜けをつくり、リビング・ダイニングと移動空間・寝室が1つにつながる開放的な空間を提案しました。

 

「田園調布の家」のリビングを見る。天井を撤去してつくられた勾配天井の大きな吹抜け。トップライトからの光が空間を包み込む。勾配のラインを視覚的に強調するように、天井仕上げはシナ合板(クリアラッカー塗装)とした

 

各務 マンション・リノベーションでも、手を付けられるのは専有部分のみですから、デザインとして手を加えられることは限られています。提案内容は必然的にクライアントの暮らしに寄り添います。設計の段階からクライアントと一緒に、仕上げ材だけではなく家具やファブリック類まで一緒にショールームを回って検討を重ねているのは、こうした意識の現れです。

 

「青山P邸」のL 字型キッチン。ガスレンジ側の壁面は磁器質タイル「イ・マルミ グリジオ」( アドヴァン)、シンク側の壁面はカラーガラス「JCW ピュアクリアホワイト」(NSGインテリア)で仕上げ、見た目の美しさと清掃性の良さを両立させた。通路部分には天板をクォーツエンジニアドストーン「4230 Shitake」(シーザーストーン)で仕上げた キャスター付きの移動式カウンターを造作で設けた

 

加えて自分はよく料理をするので、キッチンの使い勝手には特に気を配ります。油汚れによる掃除を想定すると、キッチン廻りの仕上げに天然石は扱いにくいので、「青山P邸」のように天然大理石のような質感で、掃除もしやすい磁器質タイルやカラーガラスを採用しています。

通路幅が中途半端な場合は、床付けコンセントから電源コードを引っ張って使える、キャスター付きの移動式のカウンターを設えることもあります。

 

「青山P邸」のキッチンカウンター。電源コードを天板へと取り出している様子。ゴミが内部に入らないように、ブラシ付きの配線孔キャップ「PC2000Z180型EZ002」(スガツネ工業)を採用した

 

マンションの玄関は収納スペースが少ないことが多いので、ウォークインタイプのシューズクロゼットを設える、というのも常套手段の1つです。いずれも建物の使用方法を再提案する能力に当てはまるものでしょう。それを可能にするのもクライアントとの密なコミュニケーションを伴った、設計者の観察力だと思います。

 

付加価値を分かりやすく伝える

中西 逆に言うと、新築との比較になりますが、高価な素材や特殊なデザインの提案をなかなかしづらいことが設計者にとってのジレンマになります。リノベーションでは性能向上という目的も果たさ
なければならないので、デザイン以外の見えない部分にどうしても費用がかかってしまいます。

戸建住宅でいうと、耐震性能や断熱性能など付加価値をどのようにして可視化するかも重要な職能の1つではないでしょうか。現在、耐震性能では耐震診断による上部構造評点[※1]、断熱性能では一次エネルギー消費量の計算による光熱費の算出[※2]が技術的に可能となっています。

ただし、設計者としての矜持を見せるのであれば、見えない部分の付加価値をデザインとして分かりやすく伝える、という領域に達したいものです。分かりやすい例では、耐震性能を向上させる筋かいを露しにして、インテリアのアクセントとして生かすという手法が挙げられます。

 

※1 上部構造評点とは、建物が耐震診断時に保有している耐力を、建物に必要とされる耐力で割ったもので、木造住宅の耐震性を示す指標。耐震診断の結果、上部構造評点のうち最も低い値が採用される。「倒壊しない(1.5~)」「一応倒壊しない」「倒壊する可能性がある(1.0~1.5)」「倒壊する可能性が高い(~0.7)」の判定基準がある。一般的に1.0以上で耐震性が確保されているという判定になる
※2  一次エネルギー消費量とは、冷暖房、換気、給湯、照明などの設備機器のエネルギーを熱量換算した値のこと。一次エネルギー消費量算定プログラム「住宅・住戸の省エネルギー性能の判定プログラム」で算出可能。国立研究開発法人 建築研究所のホームページ上に公開されている

 

「山中湖の家」(2005年)では、建物の短手方向に耐力壁が不足していたため、一室空間を分節するように、たすきがけの筋かいを設置しましたが、接合部の金物を隠すことで、耐震性という付加価値を美しく表現しています。

 

「山中湖の家」でダイニングの脇に設けられた筋かい耐力壁。接合部を天井裏に隠すこと、柱の位置にライン照明用のスリットを設けていることがポイント

 

各務 マンション・リノベーションにおいても、インテリアや家具につい目がいきがちですが、目に見えない部分にも費用はかかります。特に注意すべきは、設備配管の老朽化への対応です。

排水管の詰まりは致命的ですから、マンションの管理組合に問い合わせて、長期修繕計画の中で配管の修繕が行われているのか、将来的な予定を含めて確認し、排水管の劣化状況を予測します。場合によっては、ファイバースコープを使用して排水管内部の様子を正確に把握し、排水管の現況が再利用に堪えないと判断した場合には、専有部内の排水管をやり替えるケースがあります。

 

ファイバースコープを使って配管内部を調査している様子。管の材料や、逆勾配による水溜りの有無、錆の膨らみによる内部有効寸法の減少などを確認できる

 

「杉並区S邸」(2012年)のように吹付け硬質ウレタンフォームで外部に面した躯体面の断熱性能を高めるケースもあります。見えない部分の可視化に関しては、中西さんがご指摘されたように、デザインとして見せることも重要ですが、私の場合は、見えない部分の付加価値について、ブログを積極的に活用して情報発信するように心がけています。

 

「杉並区S邸」の吹付け硬質ウレタンフォームでコンクリート躯体の内側から断熱層を形成している様子。窓や開口スリーブなどはすべてマスキングした状態で断熱材を吹き付けている。隙間なく断熱層を形成できるので、熱橋が生じない

 

工事中の様子をできるだけ詳細に報告することで、見えない部分になぜ費用がかかっているのかを、クライアントに理解してもらえることができます。同業者に、苦労して獲得したノウハウを無料で公開しているともいえますけれどね(笑)。

 

各務謙司氏のブログ、建築家が考えるプレミアムリフォーム・リノベーションこちらから。

 

写真・傍島利浩ポートレート、「青山P邸」「田園調布F邸」)

 

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③につづく

 

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