インタビュー

「たまり」のある〝間取り〞が成功の方程式―飯塚豊―②

おかげさまで「建築知識」は2021年7月号で通巻800号記念を迎えました。それを記念して、『間取りの方程式』の著者である飯塚豊氏(i+i設計事務所)に、「建築知識」での思い出や、書籍誕生に関する秘話、これからの家づくりについてお話を伺いました。セミナー動画もご覧ください!!

“佇んでいるシーン”の重要性

『間取りの方程式』は、企画の段階では「解剖図鑑シリーズ」とは判型も異なるまったく別のものでした。一度まとめてはみましたが、完成した原稿は今一つでした。試行錯誤するなかで、試しに「解剖図鑑」の体裁に合わせてみたら驚くほど、ぴたっとはまり、現在の形に落ち着きました。

 新しいシリーズにすることを考えていたので、タイトルは「解剖図鑑」ではなく「方程式」としたのですが、残念ながらまったく後に続きませんでした。もともとシリーズから外す予定だったので、ほかの「解剖図鑑」とは異なり、イラスト以外にカラーの写真が入っています。「解剖図鑑」からは離されてしまいましたが、写真が掲載されたのは設計者としても嬉しいことです。

 この本は法政大学で学生に教えている内容がベースになっています。『住まいの解剖図鑑』と同じ内容にならないように気を付けましたね。『住まいの解剖図鑑』は住宅の設計において必要な基礎知識が網羅された初学者の必携本ですが、『間取りの方程式』はやや実践的に設計の〝手順と手法〞を解説した本になっています。

 大学では、ある年を境に急に上手く教えられるようになったのですが、それは「間取りでなく中間領域や断面から形を考える」という設計手法にたどり着いた時でした。これらの手法を整理して『間取りの方程式』のなかで解説しています。

 一般的な間取りの本では、部屋のレイアウト、動線、収納について書かれていることが多いように思います。レイアウト、動線、収納を工夫すれば、〝便利な家〞ができるからです。間取りについて書かれたウェブサイトでは、シュークローク、ファミリークロゼット、食品庫などの収納室が忍者屋敷のようにつながった間取りをよく目にします。

 しかし〝便利な家〞は〝快適な家〞ではありません。効率的な動線をつくることに躍起になって〝動いてるシーン〞のことばかりを考えていると、〝佇んでいるシーン〞のほうを忘れてしまいますが、住宅を魅力的にするためには、私は〝佇んでいるシーン〞の方をもっと重点的に考えるべきだと思っています。

 私がよく〝たまり〞と言っている場所のことなのですが、住宅以外の建築でもここが考えられていないように感じます。〝たまり〞というのは、自分だけの時間を過ごすためのちょっとしたスペースのことで、『間取りの方程式』でも解説しています(112~115頁)。

『間取りの方程式』でも「たまり」の場所の重要性について解説している。『間取りの方程式』は解剖図鑑とは違うシリーズで刊行予定だったので、ほかの解剖図鑑とは異なり写真が掲載されている

 

 大きな公共建築の場合は、機能的な動線は当然考慮されますが、人の居場所になる空間のことが考えられていません。丸の内にあるガラス張りの現代的なオフィスビルは、効率はよくても建築的な魅力がないものが多いように思います。

 一方でGoogle などの最新のオフィスは、ただ机が並んでいるのではなく、ソファ席があったり、段差があったり、立って作業ができたり、色んな場所をつくって楽しそうな雰囲気にしていますよね。代官山の蔦屋書店のカフェスペースにも、〝たまりの場〞となるようにさまざまな居場所が用意されています。

 利便性だけを追求するのではなく、心地よさや快適性につながる空間をいかにつくれるかということが、住宅にも、大型の建築にも求められているように感じます。

 

自分専用のテリトリーをつくる

 これからの住宅で必要な視点といえば、〝個〞のスペースも重視することだと思います。今までは、LDKと寝室・子ども室といったような個室群とパブリックスペースを分けるというゾーニングが一般的でしたが、これからは家のなかで最も離れた位置に一人一人の居場所を設けるゾーニングが主流になると思います。

「中心のある家」(設計:阿部勤)を参考に飯塚氏が作成した、たくさんの居場所がある間取りの例。寝室や個室以外の〝たまり〞の場が各所に設けられているので、自分の過ごし方や気分に合わせてくつろぐ場所を選べる。くつろぐ場所の選択肢を個室やLDK以外にも設けるのがポイントだ

 

参考動画:建築家・阿部勤の自邸「中心のある家」の美しい内部空間

 

 これは、人数分の個室を用意するという意味ではなく、家族のだれもが、〝自分専用のたまり=テリトリーをもつ〞ということです。寝る部屋とは別の、小さなスペースでも構いません。たとえば、窓際につくったベンチだったり、ごろりとくつろげるヌックだったり……自分専用の溜まりがあれば、家族と長時間家にいてもストレスを感じず快適に過ごせます。

 また、家の中に居ても外を感じられる中間領域の空間もさらに意識したいですね。リモートワークが普及して家の中での時間が増えているので、家に居ながらも外を感じられる空間は、より重視すべきだと思います。これから新しく住宅をつくるのなら、ワークスペースは外に向けてつくって、外の景色を楽しみながら仕事ができる環境にするのもよいと思います。

 

家のなかに居ながらも、外を感じられる中間領域のある住宅 (多摩N邸)。ダイニングの椅子を兼ねるベンチとデッキの高さ を揃えることで、内外の連続性を高めている。奥行を800㎜取っているので、座るだけでなくごろりと寝転ぶこともできる

オーダーメイドの洋服をつくっている建築主のためにつくられたアトリエ。北向きの大きな窓の下にカウンターを設え、外を楽しみながら作業ができるようにした。ロフトの階段下部は簡易な着替えスペース

 

 便利さだけを追い求めるのではなく、個々がほどよい距離を保ちながら、外とのつながりを感じられるようにすれば、豊かな住まいになると思います。

 

※ 本インタビュー記事は「建築知識2021年7月号 ありがとう! 800号記念特集 最高に楽しい間取り」に掲載したものです。

 

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「建築知識」通巻800号記念特別インタビュー:“住まい”の設計は無目的を旨とすべし。―増田奏―はこちらから。

「建築知識」通巻800号記念特別インタビュー:片づけ〞の善し悪しは空間の強度で決まる。ー鈴木信弘ーはこちらから。

飯塚 豊[いいづか・ゆたか]
1966年東京都生まれ。一級建築士。法政大学デザイン工学部兼任講師。’90年早稲田大学理工学部建築学科卒業。’90〜2003年大高建築設計事務所に在籍、大高正人氏に師事する。’04年 i+ i 設計事務所を設立。’11年より法政大学デザイン工学部兼任講師に就任。主な著書に『間取りの方程式』「建築知識2017年11月号―飯塚豊から見た最高の住宅工事』(エクスナレッジ)など

 

Infomation―Vol.1 見るだけで設計が上手くなる!?飯塚豊の設計5つの手順

飯塚豊さんによる設計セミナー 「飯塚豊のカタチが決まるまで間取りを描くな 基本編」(2020年8月5日開催)のアーカイブ動画です。 再生回数約27,000回の人気動画。美しい佇まいの家をつくりたい方は必聴です!

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