寒くて暑いガラス張り半円壁をどう性能アップするか
札幌駅から地下鉄で15分、新道東駅の出口を出ると目に入ってくるのは車が行き交う国道とその上を走るごっついコンクリート高架。なんとも味気ない景色のなかを国道沿いに歩くこと10分、ひときわ明るいオレンジの看板が見えてきます。そこに現れたのは、板張りの外壁と半円を描くガラス張りの建物。箱型のロードサイド店舗が並ぶなか、温かみのある佇まいに興味がそそられます。
札幌の工務店、棟晶(とうしょう)の新社屋は、もともと精密機器メーカーの流通倉庫兼事務所だったビルをリノベーションしたもの。築30年の3階建て鉄骨造の建物自体は傷みが少なく倉庫としては使える状態でしたが、貧弱な断熱とガラスで覆われたファサード(しかも西向きで夏は大変!)によって、内部は快適とは程遠い環境だったといいます。
そこで同社は、既存の外壁(ALC)に吹き付けられた断熱材を取り除き、屋根と外壁に新しく断熱材を追加。各部屋の窓にはトリプルLow-Eガラスの内窓を取り付けました。
問題は円形の部分。3階まで吹き抜けたアトリウムは魅力的な空間ですが、半円の壁を断熱改修するのは容易ではありません。できるだけ既存の建物を活用したいと考えていた棟晶の常務取締役・斎藤克也さんは、内側にもう1つ半円で断熱性能の高い壁をつくることにしました。
壁のぶんだけ空間は少し狭くなりますが、トリプルLow-Eガラスの樹脂窓を取り付けて外の冷たい空気や、夏の強い日射を完全にシャットアウト。これなら札幌の厳しい冬でもガラスが冷たくなることもなく、暖かい部屋の空気が外に逃げてしまうこともなく、快適に過ごせます。夏の西日も怖くない!(実際には目の前のコンクリート高架が日除けとなって、1階はほとんど西日が当たらないことが後から分かったそう)
こうして寒くて暑い鉄骨造の倉庫が、年中快適な環境で仕事ができる工務店の事務所になりました。めでたしめでたし… で終わらないのが、実はこの社屋のすごいところ。
仕事もはかどる!「地中熱利用」で夏も冬もやわらかな空調
これからは自分たちが快適なだけでなく、地球にもやさしい暮らしが求められる時代。そこでできるだけ自然エネルギーを使うことにしました。齊藤さんが着目したのは、地中熱。地面の中は年間を通じて約17℃で安定しています。この熱を使って夏と冬の冷暖房ができないかと考えたのです。
具体的には、地下30mまで杭を打ち、その中に不凍液を循環させて地中の熱を取り込みます。その熱をヒートポンプで熱交換して建物の冷暖房に使うという仕組みです。このような技術はこれまでにもありましたが、高価だったり、効き目が不安定だったりしてあまり普及しませんでした。そこで斎藤さんは、できるだけ手頃な金額で確実に効果が得られる地中熱利用のシステムをつくるため、北海道大学と共同開発に取り組みました。
地中熱だけで冷暖房ができるというわけではありませんが、冷暖房で消費するエネルギー量を減らし、エアコンの不快な風を抑えることができるのもメリットです。さらに屋根と壁に太陽光発電を搭載し、すべての電気エネルギーをまかなっています。余った電気は蓄電池や電気自動車に蓄電。災害時に電気が供給できる地域の避難所として備えています。
断熱改修+地中熱利用でエネルギー消費量を70%削減、残りの30%を太陽光発電でまなかいゼロエネルギーを実現しました。
新社屋竣工おめでとう!のお祝いには観葉植物
エントランスを入るとガラス張りの明るいアトリウムには、たくさんのグリーン。「これらはすべてお祝いにいただいたものなんです。実は、新社屋完成のお祝いを贈ると言ってくださる方に観葉植物を注文してもらうようにお願いしたのです。この空間はみなさんのご厚意でつくられた場所なんですよ」と齊藤さん。
お祝いに立派な胡蝶蘭もよいですが、その後の管理が大変。観葉植物ならいつまでも置いておくことができ、緑あふれるオフィスでリラックスして仕事ができるでしょう。
人にやさしく、地域にやさしく、地球にもやさしい。こんなオフィスが増えるとよいですね。
写真提供:棟晶(特記外)