木造建築への追い風が吹いています。非住宅の木造化・木質化を後押しする2019年度の法改正に伴う規制緩和、RC造やS造の価格高騰、消費者の環境志向…など。一方、断熱性、耐火性、遮音性など、木造建築を計画するうえで乗り超えなければならないハードルは低くありません。今回は、2019年度グッドデザイン賞を受賞した在来軸組構法によるホテル「星野リゾート BEB5軽井沢」(佐々木達郎建築設計事務所)を例に、設計のポイントを2回に分けて解説します。
「ジャパンホームショー2020 建築知識実務セミナー」(2020年11月13日)での佐々木氏の講演も合わせてご覧ください。
カラマツの雑木林が広がる長野県中軽井沢。2019年2月に完成した「星野リゾート BEB5軽井沢」は、周辺環境と呼応するように配置されたV字の中庭空間が印象的な総2階の木造建築です。延べ床面積2,828㎡、最高高さは9,960㎜、客室数は73室。設計を行うに当たって積極的に取り組んだのが、1.計画地の特性に合わせた事業・構造計画、2.準耐火による木の建築、3.木の構造材を生かしたインテリア、4.十分な遮音性能の確保、5.植栽を活かす板金の外装、の5点でした。
1 計画地の特性に合わせた事業・構造計画
敷地は森林に囲まれ、豊かな水資源に恵まれる一方で、地盤が軟弱な場所であった。当初はRC造やS造を検討していたが、地盤改良には多額の費用がかかってしまいます。それに対し、木造は軽量。地盤改良を行う必要はあるものの、杭の仕様が簡素なため、コストダウンが可能です。「雑木林を切り開いた場所だったので、自然環境を元に戻す感覚で、木造で進めようと思いました」と設計を担当した佐々木氏は振り返ります。RC造の資材や人件費が高騰しており、躯体のコスト比較から木造を選ぶ後押しになりました。
一般的に非住宅の木造を計画するとき、スパンを飛ばすと梁成が大きくなり、梁材を特注すれば納期もコストもかさんでしまいます。一方、スパンを無理に飛ばさず、小断面の梁を使用すれば、納期とコストに対する不安はなくなります。「星野リゾート BEB5軽井沢」では、アクティブに旅を楽しむ若者が気軽に宿泊できる場所としての機能を求められていたので、ホテルとしては少し小さめの1室当たり20㎡弱に設定。この場合、大スパンの空間は必要ありません。3,400㎜ピッチで柱を配置することで、小断面の構造材でも構造的な安定を実現しました。
2 準耐火による木の建築
不特定多数が利用するホテルは特殊建築物。しかも、「星野リゾート BEB5軽井沢」は2階の宿泊エリアの面積が300㎡以上のため、耐火建築物または準耐火建築物にしなければなりませんでした[法27条]。耐火建築物では、構造材の耐火被覆にコストがかさんでしまうほか、構造材を現すことができません。こうした理由から、イ準耐火建築物(1時間)として計画を進めています。見せ場でもある中庭に面した窓廻りの柱には、220㎜角のJAS規格ベイマツ集成材を使用。45㎜の燃えしろを確保しています[平12建告1358号]。それ以外の柱は、12・5+12・5㎜の石膏ボードで被覆し、コストバランスを図っています。
佐々木達郎[ささき・たつろう]
1979年生まれ。大学卒業後、東環境・建築研究所に入所。「星のや軽井沢」をはじめ、日本各地や海外において住宅や別荘、ホテルなどの設計に携わる。その後、2013年に独立し、佐々木達郎建築設計事務所を設立。インテリアデザインから、ホテルなどの施設まで多岐にわたる空間設計を行っている。「星野リゾート BEB5軽井沢」で2019年度グッドデザイン賞、「星野リゾート OMO5 東京大塚」でウッドシティTOKYOモデル建築賞 優秀賞を受賞。メディア掲載多数
②につづく