“塩浴処理”でステンレスに幻想的な色模様を描く
色鮮やかで絵画のように佇むステンレス—。ステンレスに対する固定観念を覆す新しい試みが生まれました。
ステンレスといえば手すりやカウンターなどに利用され、銀色の輝きが建築空間に高級感を添える建材として知られています。しかも、耐食性が高く、よほどのことがない限り、その輝きは経年変化で失われることがありません。
これに対して、自動車産業が栄える愛知県刈谷市で、金属の熱処理を生業としてきたメイネツは、ステンレスに色を付ける「塩浴着色処理」という唯一無二の技術を開発しました。その個性豊かな表情は、一般的なステンレスとは一線を画すものであり、どこか印象派の絵画、を思わせるような幻想的な風景を想像できるでしょう。
「塩浴着色処理」とは、高温(約850℃)に熱した塩浴(ソルトバス)のなかに、金属を職人が道具を使って含侵させることで、金属の表面に酸化被膜を形成し、着色をすることなく、ほかの表面処理では得られない色合いやテクスチュアを表現すること。手作業により描き出される色模様には個体差があり、絵画のような希少な存在感を醸し出すことができます。
製品の種類はオーステナイト系ステンレス鋼の代表格の“SUS304”[※1]を用いた「朧―oboro―」と、フェライト系ステンレス鋼の代表格の“SUS430”[※2]を用いた「霞―kasumi―」の2種類。加えて、それぞれの製品に、0.5㎜厚のものと1.0㎜厚のものが用意されており、それぞれに個性的な表情を浮かべています。
※1 クロムを18%、ニッケルを8%含み、良好な耐食性、加工性、溶接性など多くの優れた特性を備えている
※2 18%のクロムを含み、“SUS304”に比べると性能は劣るものの、加工性に優れており、コストパフォーマンスが高い
「朧」は、薄暮を思わせるような青色を基調としつつ、月明りのような黄色が映えるカラーリングが特徴。色が濃いため、その対比が目立ち、力強さが感じられます。「霞」は、青色を基調としつつも、朝日が照らしているようなピンク色が混ざったカラーリングが特徴。パステルカラーがもつやさしさが感じられます。
「朧」と「霞」。いずれも、要望によってステンレスの形状やサイズをその都度、デザインすること可能。板材やモザイクタイルとして壁面に張ったり、丸鋼や角形鋼管として、手摺に使用したり、空間のアクセントとしての利用が考えられます。
「朧」と「霞」の製品開発にも関わった、北海道などの寒冷地で、外国人向けの別荘やホテルの設計を手がけている須藤朋之氏(SAAD/建築設計事務所)は、高級リゾートホテル「Fenix Furano」の一角をなすレセプションの背面壁に採用。ホテルを印象付ける存在として機能しています。
参考記事:須藤朋之氏による解説記事「寒冷地で別荘をつくる方法」はこちらから。
近年では、木材をはじめとする、個体差のある自然素材が住宅・非住宅問わず、好まれるようになってきています。メイネツの「塩浴着色処理」は、こうした建材(工業製品)のトレンドをとらえたもの。「朧」と「霞」という、自然の風景を想起させる言葉の響きも重なり合います。ステンレスの新しい使い道が誕生したのです。