45°振れた瓦の大屋根
鎌倉の閑静な住宅街。通り沿いには風情ある和風住宅が並び、町が背負う歴史の深さが感じられます。そんな街並みに関心しながら歩いていくと、木塀の向こう側の美しい瓦屋根が目に入ってきます。
「これまでになく、プランが難航しました。というのも敷地が南西に45°触れていることと、敷地が広くどんな形やプランも成立してしまうので決め所がなく、かえって難しかったのです。それともう1つ。古都という地域の風趣に合わせ、瓦屋根にしようと決めていました。しかし、瓦はある程度まとまった面積がないと、その迫力や美しさが生きてこない。瓦がきれいに納まる屋根の形と、プランを合致させなければならないので、なかなか思うようなプランに辿りつかなかったのです」(堀部さん)
かくして真南に向いた大屋根の母屋に、2つの下屋が寄り添うプランが完成しました。鎌倉の豊かな緑を背景に、庭を抱き込むように3棟が並ぶ佇まいは、完成して間もないにもかかわらず、ずっとこの地を見守ってきたような風格を漂わせています。
パッシブとアクティブの太陽熱利用
しかし真南を向いた大屋根は、軒をぐっと下まで出しているため、窓から得られる日射量はそこまで大きくありません。「扇ガ谷の家」は、UA値0.34、C値0.2の高断熱高気密ですから、十分な陽当たりを確保できれば無暖房住宅も不可能ではないでしょう。
「正直にいうと僕は窓からのダイレクトゲイン(日射取得)が苦手。たとえばダイレクトゲインだけで無暖房住宅をやろうとすると、どうしても南側の窓を大きくすることになるでしょう? それは熱利用的にはよいかもしれないけれど、室内環境としては、まぶしかったり、落ち着かなかったり、よくない側面もある。台風のときは不安になるし、室内の陰影も美しくならない。でも、外でサンサンと降り注ぐ太陽の光を見れば、そのエネルギーを利用したい気持ちにはなります。それで1つの解として、空気集熱ソーラーシステムを採用するようになりました」(堀部さん)
太陽熱エネルギーをパッシブとアクティブの両面から有効利用することも、堀部さんがこの家で挑戦したことです。窓の面積を絞った反面、排熱・換気・採光の目的で母屋に越屋根を設けています。そして、その上に空気集熱パネル(OMソーラーパネル)を載せています。古都の景色としての瓦屋根の存在感を損なうことなく、ソーラーパネルを置く堀部流のアクティブ活用といえるでしょう。
「東京大学大学院の前真之研究室にOMソーラーを利用して、最も効率よく快適な温熱環境になるパネル容量をシミュレーションしてもらいました。当初は、越屋根の長さを意匠上1050㎜で考えていましたが、前研究室からパネル長さが1050㎜と2110㎜のシミュレーション結果を提示され、2110㎜の長さがあるとより効果的に太陽熱が利用できると分かったので、2110㎜にしました」(堀部さん)。
扇ガ谷の家については、建築知識ビルダーズno.46の巻頭で特集しています。ぜひご覧下さい。
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オンライントークイベントを開催!
「扇ガ谷の家」について、建築家・堀部安嗣さんと、温熱設計をサポートした前真之さんに、誌面には載せられなかったことを含めてあれこれお話いただくトークイベントを開催します。建築知識ビルダーズ編集長の木藤も司会として参加します。皆様のご視聴をお待ちしています。
概要
日時:2021年10月8日(金)17:00~19:00
形式:ウェビナー
費用:無料
定員:800名(定員になり次第終了)
申込:事前予約制(10月7日18:00締切)
主催:OMソーラー × 建築知識ビルダーズ